こちら診察室 学校に行けない子どもたち~日本初の不登校専門クリニックから見た最前線

不登校問題の現状と実感
~心療内科医として父として~ 【第1回】

 不登校児童生徒の急増は、日本の教育現場が直面している最も深刻な問題の一つです。 私が島根県出雲市で開院している不登校専門のクリニックでは、日々多くの不登校の子どもたちとその家族に接していますが、その診療依頼件数は年々増加の一途をたどっています。私自身にとっても人ごとではありません。私の娘も現在不登校の状態にあり、医師としてだけでなく一人の父親として、この問題の難しさと苦しみを身をもって体験しています。

不登校の状況(出典:文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査」、2014年以前は「学校基本調査」)

不登校の状況(出典:文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査」、2014年以前は「学校基本調査」)

 ◇デジタル社会移行で急増

 問題の深刻さは、文部科学省の統計からも明らかです。過去30年間の推移を見ると、全ての学校段階で不登校児童生徒数が顕著に増加しています。小学校では1993年度の約0.8万人(0.17%)から2022年度には約10.4万人(1.70%)へと、実に13倍もの増加を示しています。中学校の状況はさらに深刻で、93年度の約5.7万人(1.24%)から22年度には約19.8万人(5.98%)へと増加し、実に17人に1人の生徒が不登校という状況に陥っています。高等学校においても、04年度の統計開始以降、緩やかながら着実な増加傾向を示し、22年度には約7.8万人(2.04%)に達しています。

 特に注目すべきは2013年度以降の急増傾向です。この時期はスマートフォンやSNSの普及と重なっており、デジタル社会への急速な移行が子どもたちの対人関係やコミュニケーション能力に大きな影響を与えていることが推測されます。同時に、子どものメンタルヘルスの問題が顕在化してきた時期でもあります。さらに、20年度以降の新型コロナウイルス感染症の影響は、不登校問題をより一層、深刻化させました。感染への不安、オンライン授業への適応困難、学校生活リズムの乱れなどが複合的に作用し、不登校児童生徒数は過去最高を更新し続けています。

 ◇何らかの精神疾患

 この統計が示す傾向は、私の医師としての経験からも肌感覚と一致しています。しかし、ここで強調したいのは、これらの数字の裏に隠れた子どもたちの苦しみです。不登校の子どもたちの多くは、単に「学校に行きたくない」という理由だけでなく、深刻な心の問題を抱えていることが多いのです。私の娘もその一人であり、父親として娘の苦しみを目の当たりにすることは医師としての経験以上に心を痛めるものです。

 この不登校の増加傾向は、日本の教育システムが根本的な岐路に立たされていることを示していますが、実は同時に医療システムの課題も浮き彫りにしています。驚くべきことに私がこれまで診療してきた不登校の子どもたちの実に98.5%に、何らかの精神疾患が見られました。うつ病が33.1%、不安障害が29.2%、起立性調節障害が3.1%などとなっています。さらに、全体の52%に発達障害の特性が見られました。これらの数字は不登校が単なる教育や社会の問題だけでなく、医療の問題でもあることを示しています。

 ◇未成年者に対する精神医療

 従来の画一的な教育体制では多様化する子どもたちのニーズに対応できなくなっているのと同様に、現在の医療でも不登校の子どもたちの心の問題に十分に対応できていないのが現状です。というのは、未成年者に対する精神医療は極めて専門性が高い分野であり、対応できる医師の数が極めて少ないのです。また、この分野では研究によるデータの蓄積が圧倒的に不足しているほか、標準的な治療法そのものがなく、臨床医が自身の経験とセンスを頼りに手探りで対応するしかなく、一般精神科医の大多数が苦手とする分野でもあります。このため、未成年の受診自体を断っている精神科・心療内科クリニックは現実に非常に多く存在します。

 このような教育・医療体制の資源の不足は、不登校問題の解決を一層困難にし、長期的には深刻な社会問題につながる可能性があります。将来的な労働力の低下や社会保障制度への影響など、日本社会全体に波及する問題となることが懸念されます。適切な支援を受けられない不登校の子どもたちが社会から孤立し、将来的な就労や社会参加に困難を抱えるリスクは看過できません。一人の父親として娘の将来を思うと不安が募ります。

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