こちら診察室 学校に行けない子どもたち~日本初の不登校専門クリニックから見た最前線

不登校問題の現状と実感
~心療内科医として父として~ 【第1回】

 ◇家族への負担増

 私の診療経験からも、不登校が長期化すると社会性の発達が遅れたり、自尊心が低下したりするケースが多いことを実感しています。これらの問題は、将来の就労や人間関係の形成にも大きな影響を与える可能性があります。さらに、不登校の子どもを抱える家庭の負担増大も深刻な問題です。家族の精神的ストレスの増加、家庭内の軋轢(あつれき)など、家族全体に影響を及ぼすこともしばしばです。私自身、娘の不登校に直面し、家族としての苦悩を日々経験しています。特に母親の負担が大きいケースが多く、私の妻もストレスを抱えています。こうした親の精神状態の悪化は、さらに子どもの状態を悪化させるという悪循環を生み出すことがあります。

 また、不登校の問題は経済的な側面も無視できません。子どもの世話やケアのための親の離職や、不登校に対応するための教育費用など、家計への負担は決して小さくありません。私の家庭でも、娘のために妻が正規就労を諦めたほか、家庭教師の導入などさまざまな支援を試みていますが、その経済的負担は少なくありません。

 このように不登校の問題は、もはや個人や家庭、学校だけの問題ではありません。日本社会の根幹を揺るがす重大な社会問題として認識すべきです。30年にわたる不登校児童生徒数の増加傾向は、日本の教育システムと社会構造の変革が避けられないことを示す重要な指標であり、同時に医療システムの変革の必要性も示しているのです。

 ところで、私の普段の臨床経験と一人の父親としての経験から、不登校の子どもたちの多くが何らかの精神疾患を抱えていると確信しています。しかし、「こどもにも多くの精神疾患が存在する」という事実の認識は、まだ専門家ですらも十分ではなく、ましてや社会全体ではほとんど認識されているとは言えません。そのため「不登校は甘え」「親の育て方が悪い」といった誤った認識が、適切な支援や治療の障壁となっているケースも少なくありません。私自身、娘の不登校に直面した際、周囲の理解を得ることの難しさを痛感しました。

 ◇社会全体で取り組む必要

 実際、不登校の子どもたちの多くは「学校に行きたくない」と表明しますが、実はそれは文脈の一面でしかありません。現実に不登校児を丁寧に診療すると、隠れたうつ病や不安障害などの症状を抱えており、「本当は行きたいけど、行くと症状が悪化するのが分かっているので行きたくない」というケースが大半です。子ども自身が自分の状態を適切に表現するボキャブラリーがなく、また当然ながら精神疾患という概念もないためです。

 このような子どもたちに対しては、やはり医療的なアプローチが不可欠です。同時に、学校や社会の側の理解と柔軟な対応も重要です。例えば、部分的な登校や、オンライン学習の活用など、個々の子どもの状態に応じた多様な学習形態を認めていく必要があります。

 この問題の解決には長い時間がかかるかもしれません。しかし、一人一人の子どもの笑顔を取り戻すために、社会全体で取り組んでいく必要があります。そして、その過程で得られた知見を社会に還元し、より良い教育システムと医療システムの構築につなげていくことが重要だと考えています。私は医師として、そして一人の父親として、この問題に真摯(しんし)に向き合い続けていきたいと思います。(了)

 参考文献:令和6年版子ども白書 子ども家庭庁

飯島慶郎医師

飯島慶郎医師

 飯島慶郎(いいじま・よしろう) 精神科医・総合診療医・漢方医・臨床心理士。島根医科大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三内科、三重大学医学部付属病院総合診療科などを経て、2018年、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニックを開院。島根大学医学部附属病院にも勤務。


  • 1
  • 2

【関連記事】


こちら診察室 学校に行けない子どもたち~日本初の不登校専門クリニックから見た最前線