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子どもの近視 【第7回】

 近視はなぜいけないか?

 近視は目が変形する状態です。その結果、さまざまな病気のリスクが上がります。例えば、近視があると白内障は早く出現しますし、緑内障にもなりやすくなります。近視が強くなればなるほど目の底の網膜が引き伸ばされ、網膜剥離が生じるリスクが上がります。強度近視になると、実に10倍以上網膜剥離になる確率が上がるとされています。すなわち、近視眼鏡でピントを変えることだけで解決する問題ではなく、病気を招くものと認識する必要があります。

 また、生活の面でも大変です。近視は手元が見える状態ですが、強度近視になるとおおむねピントの合う位置が16センチ以下になります。この距離は読書やスマートフォンを見るにも近すぎるので、強度近視の方は手元を見るにも眼鏡が欲しい状態になり、生活に強い不便を感じます。

 ◇小児の近視治療のラインアップ

 小児の近視進行抑制治療として、さまざまなものの有効性が確認されています。過度の近業は、目に対してはピント調節を行う毛様体筋に負担がかかり、調節緊張の状態になります。この調節緊張を緩める点眼として低濃度アトロピン点眼が世界で広く使われています。寝る前に1回点眼をするだけで済みます。目に対する光の入り方を変えるような治療もあります。寝る前にハードコンタクトレンズをつけるオルソケラトロジー、遠近両用の機能を持つ多焦点ソフトコンタクトレンズ、特殊眼鏡も良好な成績を上げています。

 治療とは少し異なるかもしれませんが、屋外活動を増やすために研究者やアスリートが集まり、「外遊び推進の会」というものが結成されています。この会は、国による子どもの屋外活動の制度化を目指して国会議員に対する勉強会なども行っています。

 近視治療が普及しない理由―日本独自の問題―

 この記事を読んで、初めて子どもの近視に対する治療があることを知った方も多いと思います。なぜこういった情報が普及しないか、それは国が認めていないからです。それには二つの問題が関わってきます。

 一つは、日本の新規医療導入に対する「柔軟性の無さ」です。研究というのは積み重ねです。近視研究に関してアジアの先進国、オーストラリアなどを中心に多数の論文が出ています。これらの積み重ねを採用することができれば、子どもの近視治療が有効であることが分かるはずです。ところが、国はそれを認めることをせず、改めて治験などを要求します。これには多大な費用と労力が発生します。国が高いハードルを設けているわけです。

 もう一つが、近視進行対策は「治療か?」あるいは「予防か?」という考え方です。先ほどお話ししたように近視は病気を招きます。ですが、すぐに病気になるわけではありませんし、さらに全員がなるわけではありません。これを指摘して、国は近視進行対策を治療ではなく、予防だと考えているようです。そして、予防は医療費で賄うべきではない、自由診療として対応すべきだとしています。子どもたちの未来の病気を予防できる、個人的にはこれは非常に重要なことだと思いますが…

 ◇小児の近視は治療できる時代

 時代の流れから、近視になるのは正直なところ止め難いです。しかし、そのメカニズムを知り、対策をすれば、進むのをかなり抑えられるようになってきています。国の対応も遅れる中、親が小児の近視に関する知識を持つことは子どもたちの明るい将来に直結するでしょう。

 子どもの近視が進まないようにすることはできるようになりました。近視が進んでしまった後の大人はどういったことに気を付けるべきでしょうか。これについては次回、大人の近視についての回でお話をしていきたいと思います。(了)

岩見久司医師

岩見久司医師

 岩見久司(いわみ・ひさし) 大阪市大医学部卒、眼科専門医・レーザー専門医。 大阪市大眼科医局入局後、広く深くをモットーに多方面に渡る研さんを積む。ドイツ・リューベック大学付属医用光学研究所への留学や兵庫医大眼科医局を経て、18年にいわみ眼科を開院。老子の長生久視(長生きして、久しく目が見えている状態)が来る時代を願い、22年に医療法人社団久視会に組織を変更した。現在は多忙な診療を行う傍ら、兵庫医大病院で非常勤講師として学生や若手医師に対して教鞭をとる。

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