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白内障手術の方法と合併症 【第3回】

 ◇術後にさまざまな症状も

 白内障手術は年間150万件以上行われています。安全性が高いとはいえ、合併症を生じる可能性もありますので、次の事柄は予備知識として知っておきましょう。

 1. 感染(眼内炎)
 手術中あるいは術後、目の中に細菌が侵入して増殖し、強い炎症がまれに起きます。特に手術の3日後~1週間後に起こることが多く、急激に視力が下がってきたり、目やにや充血、ひどい痛みなどに気付いたりしたら早めに医師に相談しましょう。

 2. 眼内レンズ挿入不可
 進行した白内障やチン小帯が弱いなど、難易度が高いと予想されるような手術では、1回で眼内レンズを挿入できないことがあります。その場合には強膜内固定術(眼球の壁に直接レンズを固定する手術)を同日あるいは後日行う必要があります。

 3. 眼内レンズの偏位・脱臼
 手術後、外傷などを契機として眼内レンズの偏位・脱臼が起きることがあります。偏位が大きい場合には、元の位置に戻す整復手術が必要となる場合があります。

 4. 網膜剥離
 発症率は低いものの、手術後に生じる恐れのある合併症の一つです。飛蚊症(ひぶんしょう)が徐々に悪化してきたり、視野の一部が暗くなってきたりする症状に気付いたら早めに受診しましょう。

 5. 駆逐性出血
 手術中に目の奥の動脈から大出血する合併症です。発症率は0.03〜0.06%と極めて低いですが、糖尿病やコントロール不良の高血圧、眼手術の既往歴がある場合は発症率が高まります。

 6. 嚢胞様黄斑浮腫
 網膜のむくみ(腫れ)のことで、手術後、早期に表れます。

 7. 角膜内皮障害(水疱性角膜症)
 手術後、角膜(黒目)に徐々に進行する浮腫を伴う障害が起きます。軽度なら抗炎症薬の点眼などで徐々に回復しますが、高度障害だと浮腫が長引き、水疱(すいほう)性角膜症となります。この場合は角膜移植などの外科的治療が必要になるケースもあります。

 8. 後発白内障
 手術して数カ月から数年たつと、眼内レンズを収めている水晶体嚢が濁り、白内障と同じような症状が出ることがあります。これを後発白内障と言います。かすみ・見えにくさが出てきた場合、専用のレーザーで濁りを消せば、手術直後の見え方に戻ります。

 9. 術後屈折誤差
 手術前に決めた眼内レンズのピントの位置がずれることを術後屈折誤差と言います。誤差が大きく、見え方に影響が及ぶ場合は、レンズの入れ替え手術などを行う必要があるため、質の高い手術前・手術中検査が必要不可欠です。

 白内障が進行し過ぎたり、チン小帯が弱かったりする場合、また外傷やアトピー性皮膚炎に伴うものの場合は合併症の発生頻度が上昇します。医師からこのような話があった際には、生活に困っていないからといって手術を先延ばしにしないよう注意しましょう。

 ◇不安視は不要

 手術中あるいは手術後に生じる合併症は他にもいろいろあり、不安に感じる方もいるでしょう。しかし、実際の発生頻度はごくわずかで、ほとんどは杞憂(きゆう)に終わります。あまり心配せず、手術前の日々は「気持ちよく見えるようになったら何をしようかな」と考えてみてください。

 目のせいで諦めた趣味を再開するのはどうでしょう。新たなことにチャレンジするのも悪くありません。白内障手術を受けた後には気持ちの良い毎日が待っています。新しい生活、楽しい日常を想像し、不安や怖さを乗り越えていきましょう。(了)

渡邊敬三院長

渡邊敬三院長


 渡邊敬三(わたなべ・けいぞう)
 近畿大学医学部を卒業後、同眼科学教室に入局し、大阪府和泉市の府中病院(現府中アイセンター)に勤務。オーストラリア・シドニーでの研究留学などを経て、帰国後は同大学病院眼科で医学部講師として、白内障外来および角膜・ドライアイ外来を担当する。2016年に大阪府熊取町の南大阪アイクリニック院長に就き、多数の白内障手術を手掛けている。
 診療の傍ら、オウンドメディア「白内障LAB」やYOUTUBEチャンネルで白内障や白内障手術の情報を発信している。

【参考文献】

 Narayan A et al. Cochrane Database Syst Rev. 2023 Jun 23;6(6)

 Lee YW et al. Asia Pac J Ophthalmol. 2023 Sep-Oct 01;12(5)

【画像出典】白内障LAB

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