硫化水素中毒のメカニズムと対応方法 家庭の医学

■硫化水素中毒のメカニズム
 細胞内でエネルギーを産生しているミトコンドリア内のチトクロームオキシダーゼに含まれる3価鉄(Fe3+)と結合し、この酵素を失活させ細胞呼吸を障害し、結果的に組織・臓器が障害されます。硫化水素は肺や消化管から容易に吸収され、きわめて毒性の高い毒物です。
 近年、硫黄入浴剤とトイレ洗浄剤(9.5%塩酸含有)を混合し、硫化水素を発生させ自殺をはかる事件が相次いでいるのはご存じのとおりです。

●硫化水素中毒の症状
硫化水素濃度症状
 0.05~0.1ppm独特の臭気(腐敗卵臭)を感じる
 50~150ppm嗅覚脱出が起こり、独特の臭気を感じなくなる
 150~300ppm流涙、結膜炎、角膜混濁、鼻炎、気管支炎、肺水腫
 500ppm以上意識低下、死亡


 硫化水素中毒は、発生場所、詳細な状況聴取、卵がくさったような独特の臭気により比較的診断がつきやすい中毒です。発生現場(マンホール、下水道、地下道工事、タンク内、温泉場、自殺企図の場合の家屋)では、高濃度の硫化水素貯留が予想され、あわてて無防備に救助に入ると救助者自身が倒れてしまいます。消防に通報し、防護服を着用した消防士・救助隊に救助を任せるようにしましょう。
 したがって、現場での救命処置は原則不可能です。硫化水素中毒による心肺停止患者に、口対口人工呼吸をおこない、救助者自身が硫化水素中毒におちいった事例も報告されています。

■事例で学ぶ硫化水素中毒への対応
 帰宅したら、自宅浴室に目張りがされており、浴室から卵がくさったようなにおいが漏れ出ています。浴室には弟が倒れているようです。
 「浴室から卵がくさったようなにおいが漏れ出ています」ので、この場合、硫化水素中毒を疑います。対応方法は、ただちに消防へ通報し、発見者自身が中毒患者にならないよう、すぐに現場を離れてください。可能ならば、発見者の携帯電話番号メモを現場に残しておくとよいでしょう。発見者にとって「すぐ現場を離れる」のは、苦渋の選択でしょうが、新たな中毒患者発生防止を優先してください。
 また、浴室の換気扇を回してはいけません。換気扇を回してしまうと、浴室内の有毒ガスが浴室外に排出され、換気口周囲に汚染拡大、中毒患者発生を招く危険があるためです。

(執筆・監修:社会医療法人恵生会 黒須病院 内科 河野 正樹)