女性のライフサイクルとホルモン 家庭の医学

 女性の一生は胎児期、小児期、思春期、成熟期、更年期(周閉経期)、老年期に区別され、生殖生理機能も時期により異なります。生殖生理機能とその成熟には神経ペプチド、性ステロイドホルモンと深い関連があり、生殖器官である外陰(がいいん)、腟(ちつ)、子宮、卵管は、卵巣から分泌される性ステロイドホルモンにより直接的に影響を受けます。
 卵巣機能は、中枢(視床下部、脳下垂体)から分泌されるホルモンにより調節されています。卵巣からは女性ホルモン(エストロゲン)、男性ホルモン(アンドロゲン)、そして排卵後に黄体(おうたい)ホルモン(プロゲストーゲン)が分泌されます。エストロゲンの代表はエストラジオール、アンドロゲンの代表はテストステロン、黄体ホルモンの代表はプロゲステロンというホルモンです。
 これらの卵巣ホルモンの分泌を促進するおもな因子が、脳下垂体から分泌される卵胞(らんぽう)刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)です。この2つのホルモンを総称してゴナドトロピンと呼びます。そして、このゴナドトロピンの分泌を直接刺激するものが視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)です。GnRHの分泌を促進する因子としてキスペプチン、GnRHの作用を抑制する視床下部から分泌される因子として、ゴナドトロピン放出抑制ホルモン(GnIH)が同定されましたが、これらのホルモンは、たがいに影響を及ぼしあいながらバランスを保っています。
 生殖生理機能の基礎はすでに胎児期から始まっており、卵巣には胎生期23週ころには数百万個の生殖細胞(卵子)が存在しますが、一度形成された生殖細胞は増加することはなく、以降減少し続けます。新生児期から小児期にかけて、中枢神経系の機構は未熟のためエストロゲンも思春期まで低値を持続します。思春期では、卵巣の生殖細胞数は数十万個までに減少しています。思春期になると中枢神経系が成熟し、視床下部のGnRH分泌および下垂体前葉のゴナドトロピン分泌の増加により、卵巣が刺激され始めます。性ステロイドホルモンの分泌が増加してくると、二次性徴が始まります。
 二次性徴は、乳房の発達→陰毛の発生→腋毛(わきげ)の発生→初経(しょけい)の順に発現します。成熟期では中枢からのホルモン分泌の周期性が確立されることにより、卵巣ホルモンの分泌も周期的変動がみられるようになります。卵巣では卵胞と卵の発育、排卵、黄体形成が周期的にくり返されます。更年期(周閉経期)とは、生殖期から生殖不能期への移行期と定義されており、完全な閉経の前後5年ずつ、一般的には45~55歳がその時期に相当します。生殖細胞が消滅すると、卵巣機能が停止し閉経(へいけい)します。

(執筆・監修:東京大学大学院医学系研究科 准教授〔分子細胞生殖医学〕 平池 修)