不妊症の治療
■性交渉のタイミング指導
基礎体温は、排卵の時期を予測する方法として一般的に用いられますが、実際にはこれだけで予測するのは困難なこともあります。排卵を予測する検査薬を薬局で購入することができるので、これを利用するのもいいでしょう。
産婦人科では、超音波(エコー)検査で卵巣の中の卵胞(らんぽう)の大きさや子宮内膜の厚さを測定したり、頸管粘液を観察して排卵の時期を予測したりします。より確実に排卵と性交渉の時期をあわせるため、排卵期直前に確実に排卵させるためのhCG(ヒト絨毛〈じゅうもう〉性ゴナドトロピン)というホルモン注射をすることがあります。
■排卵誘発薬
おもに排卵障害のある場合に使用しますが、原因不明不妊症でも使用することがあります。内服薬と注射薬があり、排卵障害の原因やそれまでの治療の経過により使用する薬剤や使用量が違ってきます。排卵誘発薬は卵胞発育が促進されるいっぽうで、一度に複数の卵子が排卵されることにより多胎(ふたごや三つ子)になることがあります。
副作用として卵巣が過剰に刺激された結果、卵巣がはれたり、おなかに水がたまったりすることがあります(卵巣過剰刺激症候群)。重症になると入院しなければいけなくなることがあります。
■その他の薬物療法
高プロラクチン血症や甲状腺機能低下症の場合には、それぞれの治療薬を内服しながら不妊治療を並行しておこなうことがあります。子宮内膜、頸管や卵管などに感染が起こっている場合には、抗菌薬で治療をおこなってから不妊治療をおこないます。
■人工授精
人工授精は、自然な性交渉によらず、男性から採取した精液を子宮内に注入する方法です。精子の少ない場合、精子の運動率が低い場合、頸管粘液に異常がある場合におこないます。また、原因不明不妊症や不妊期間が長期に及ぶ場合にもおこなうことがあります。排卵期に男性に用手的に採取してもらい、通常は精液を洗浄・濃縮したのち、細いカテーテルで子宮の中に精子を注入します。
■手術療法
卵管がつまっている場合や卵管のまわりに癒着(ゆちゃく)があることが予想される場合に、腹腔(ふくくう)鏡や卵管鏡を用いた手術療法で修復を試みます。
また、原因不明不妊症や不妊期間が長期に及ぶ場合に、腹腔鏡で卵管の癒着など不妊症の原因がないかどうか調べることもあります。この場合、おなかの中を十分に洗浄したり、大量の水を卵管に通したりといった治療も同時におこないます。
子宮筋腫や卵巣の子宮内膜症性卵巣嚢胞(のうほう)が、不妊症の原因と考えられる場合には手術をおこなうことがあります。病気の状態により、開腹手術か腹腔鏡手術を選択することになります。子宮内膜に近い部分にある子宮筋腫や子宮内膜ポリープは、子宮鏡(子宮にファイバースコープを入れて中の状態を確認する)を用いて手術をすることがあります。
子宮の形態異常がくり返す流産(習慣流産)の原因になることがあり、手術をおこなうこともあります。
■体外受精・胚移植
体外受精とは、排卵近くまで発育した卵子を採卵手術により体外に取り出し、精子と接触させ、受精し正常に発育した卵を得る治療法です。体外受精をおこなうのは、卵管が閉塞しているか機能していない場合、精子の数や運動率が不十分であり人工授精では妊娠しない場合、そのほかの原因の不妊症で他の治療では妊娠に至らない場合などです。体外受精では、精子を卵子が入った培養液に加える操作をおこない、添加された精子のうち受精できる条件を満たしたものが、卵子と受精することになります。
いっぽう、体外受精では受精しないと判断される場合や、体外受精をおこなっても受精率がわるかった場合には、顕微授精をおこないます。顕微授精は、体外に取り出した卵子に対し、顕微鏡で確認しつつ細いガラス針の先端に入れた精子を卵子に直接注入し受精させる方法です。
体外受精または顕微授精で得られた受精卵を細いカテーテルで子宮内に置く治療を、胚(はい)移植といいます。胚移植には、体外受精または顕微授精をおこなったのちにそのまま胚移植をおこなう新鮮胚移植と、体外受精や顕微授精で得られた受精卵をいったん凍結保存し、べつの周期に融解して胚移植する、凍結融解胚移植があります。以前は、1回の胚移植で複数個の胚を戻すことがよくおこなわれていましたが、受精卵凍結保存や融解胚移植の技術の進歩に伴い、最近では通常1つにすることができるようになり、体外受精・胚移植による多胎妊娠の危険性を減らすことに成功しています。
■男性不妊の治療
精子形成に問題がある場合には、ホルモン療法や漢方薬・ビタミン薬・血流改善薬を使用することがあります。精索静脈瘤(りゅう)があり、精子形成に問題がある場合には手術をおこなうことがあります。高度の精液性状低下や無精子症に対しては、手術的に精巣から精子を取り出して(精巣内精子採取術)、その採取した精子を用いて顕微授精をおこなうことがあります。
男性の不妊の検査は、婦人科か泌尿器科でおこなわれますので、相談(カウンセリング)をしてみましょう。
■不妊治療の保険適用化
2022年4月から、これまで自費診療でおこなわれていた人工授精、体外受精・胚移植、顕微授精、胚凍結、精巣内精子採取術などの不妊治療が保険で受けられるようになりました。体外受精・胚移植に関しては年齢制限と回数制限があり、治療開始時の女性の年齢が40歳未満の場合は胚移植6回まで、40歳以上43歳未満の場合は胚移植3回まで保険適用されます。
【参照】腎臓・尿路・男性性器の病気:男性不妊
基礎体温は、排卵の時期を予測する方法として一般的に用いられますが、実際にはこれだけで予測するのは困難なこともあります。排卵を予測する検査薬を薬局で購入することができるので、これを利用するのもいいでしょう。
産婦人科では、超音波(エコー)検査で卵巣の中の卵胞(らんぽう)の大きさや子宮内膜の厚さを測定したり、頸管粘液を観察して排卵の時期を予測したりします。より確実に排卵と性交渉の時期をあわせるため、排卵期直前に確実に排卵させるためのhCG(ヒト絨毛〈じゅうもう〉性ゴナドトロピン)というホルモン注射をすることがあります。
■排卵誘発薬
おもに排卵障害のある場合に使用しますが、原因不明不妊症でも使用することがあります。内服薬と注射薬があり、排卵障害の原因やそれまでの治療の経過により使用する薬剤や使用量が違ってきます。排卵誘発薬は卵胞発育が促進されるいっぽうで、一度に複数の卵子が排卵されることにより多胎(ふたごや三つ子)になることがあります。
副作用として卵巣が過剰に刺激された結果、卵巣がはれたり、おなかに水がたまったりすることがあります(卵巣過剰刺激症候群)。重症になると入院しなければいけなくなることがあります。
■その他の薬物療法
高プロラクチン血症や甲状腺機能低下症の場合には、それぞれの治療薬を内服しながら不妊治療を並行しておこなうことがあります。子宮内膜、頸管や卵管などに感染が起こっている場合には、抗菌薬で治療をおこなってから不妊治療をおこないます。
■人工授精
人工授精は、自然な性交渉によらず、男性から採取した精液を子宮内に注入する方法です。精子の少ない場合、精子の運動率が低い場合、頸管粘液に異常がある場合におこないます。また、原因不明不妊症や不妊期間が長期に及ぶ場合にもおこなうことがあります。排卵期に男性に用手的に採取してもらい、通常は精液を洗浄・濃縮したのち、細いカテーテルで子宮の中に精子を注入します。
■手術療法
卵管がつまっている場合や卵管のまわりに癒着(ゆちゃく)があることが予想される場合に、腹腔(ふくくう)鏡や卵管鏡を用いた手術療法で修復を試みます。
また、原因不明不妊症や不妊期間が長期に及ぶ場合に、腹腔鏡で卵管の癒着など不妊症の原因がないかどうか調べることもあります。この場合、おなかの中を十分に洗浄したり、大量の水を卵管に通したりといった治療も同時におこないます。
子宮筋腫や卵巣の子宮内膜症性卵巣嚢胞(のうほう)が、不妊症の原因と考えられる場合には手術をおこなうことがあります。病気の状態により、開腹手術か腹腔鏡手術を選択することになります。子宮内膜に近い部分にある子宮筋腫や子宮内膜ポリープは、子宮鏡(子宮にファイバースコープを入れて中の状態を確認する)を用いて手術をすることがあります。
子宮の形態異常がくり返す流産(習慣流産)の原因になることがあり、手術をおこなうこともあります。
■体外受精・胚移植
体外受精とは、排卵近くまで発育した卵子を採卵手術により体外に取り出し、精子と接触させ、受精し正常に発育した卵を得る治療法です。体外受精をおこなうのは、卵管が閉塞しているか機能していない場合、精子の数や運動率が不十分であり人工授精では妊娠しない場合、そのほかの原因の不妊症で他の治療では妊娠に至らない場合などです。体外受精では、精子を卵子が入った培養液に加える操作をおこない、添加された精子のうち受精できる条件を満たしたものが、卵子と受精することになります。
いっぽう、体外受精では受精しないと判断される場合や、体外受精をおこなっても受精率がわるかった場合には、顕微授精をおこないます。顕微授精は、体外に取り出した卵子に対し、顕微鏡で確認しつつ細いガラス針の先端に入れた精子を卵子に直接注入し受精させる方法です。
体外受精または顕微授精で得られた受精卵を細いカテーテルで子宮内に置く治療を、胚(はい)移植といいます。胚移植には、体外受精または顕微授精をおこなったのちにそのまま胚移植をおこなう新鮮胚移植と、体外受精や顕微授精で得られた受精卵をいったん凍結保存し、べつの周期に融解して胚移植する、凍結融解胚移植があります。以前は、1回の胚移植で複数個の胚を戻すことがよくおこなわれていましたが、受精卵凍結保存や融解胚移植の技術の進歩に伴い、最近では通常1つにすることができるようになり、体外受精・胚移植による多胎妊娠の危険性を減らすことに成功しています。
■男性不妊の治療
精子形成に問題がある場合には、ホルモン療法や漢方薬・ビタミン薬・血流改善薬を使用することがあります。精索静脈瘤(りゅう)があり、精子形成に問題がある場合には手術をおこなうことがあります。高度の精液性状低下や無精子症に対しては、手術的に精巣から精子を取り出して(精巣内精子採取術)、その採取した精子を用いて顕微授精をおこなうことがあります。
男性の不妊の検査は、婦人科か泌尿器科でおこなわれますので、相談(カウンセリング)をしてみましょう。
■不妊治療の保険適用化
2022年4月から、これまで自費診療でおこなわれていた人工授精、体外受精・胚移植、顕微授精、胚凍結、精巣内精子採取術などの不妊治療が保険で受けられるようになりました。体外受精・胚移植に関しては年齢制限と回数制限があり、治療開始時の女性の年齢が40歳未満の場合は胚移植6回まで、40歳以上43歳未満の場合は胚移植3回まで保険適用されます。
【参照】腎臓・尿路・男性性器の病気:男性不妊
(執筆・監修:東京大学大学院医学系研究科 教授〔産婦人科学〕 廣田 泰)