[耳の構造とはたらき]

 耳には大きく分けると2つのしくみがあります。“聞く”ことと“体のバランスをとる”ことです。この2つのしくみは脳を含めた大きなシステムで維持されており、耳にそのセンサー(感覚器)が存在します。


■聞く
 “聞く”しくみは、耳では4つの部分からなります。音(波動)が届くとこれを増幅し、感じて分析して脳に伝えます。

1.音をキャッチする外耳(外耳道と耳介)は、耳介(じかい:耳たぶ)で音をすこし増幅します。また耳介があるため、うしろからきた音のほうが前からきた音より小さく聞こえるなどの情報から音がどこからくるかの推測(方向感)にも役立ちます。外耳道では音を共鳴させ、中音域(3kHz〈キロヘルツ〉周辺)の音が増幅されます。

2.音が中耳(鼓膜と耳小骨)に伝わると、鼓膜を振動させ、耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)がそれを増幅させます。ここで約30dB(デシベル)、音が増幅(約30dB=約20倍)されます。もし、中耳炎などにより鼓膜がまったくなくなってしまった場合は、この増幅機能がなくなるだけではなく、次の蝸牛(かぎゅう)に2つの経路(卵円窓と蝸牛窓)から音が入るため、音が相殺しあい、そのままでは10dBほど音の振動が減少してしまいます。それを防ぐ効果(遮蔽効果)も鼓膜はもっています。なお、外耳道が閉鎖するなど音が外耳・中耳から蝸牛に伝わらない場合でも、60dB以上の大きな音は頭蓋骨を振動させて蝸牛にも音振動が伝わるため、まったく聞こえなくなることはありません。

3.大きく増幅された音はアブミ骨から卵円窓を通って、蝸牛の中の、鼓室階から前庭階に存在する、外リンパという液体に伝わります。ここでは水面の波のように音が伝わるので、これを進行波といいます。この波によって蝸牛のまん中にある中央階の膜(基底板)が振動されます。基底板の上には音のセンサーである感覚細胞(有毛細胞)が並んでおり、この振動が伝わると細胞が興奮することになります。
 この感覚細胞は基底膜にならぶコルチ器にあり、内有毛細胞と外有毛細胞の2種類あります。

 有毛細胞は一つひとつ担当する音の高さ(周波数帯域)が決まっており、アブミ骨に近いほう(基底回転)がより高い周波数を、遠いほう(頂回転)がより低い周波数に反応します。内有毛細胞は全部で約3500個あり、音の感覚を脳に伝えるはたらきをもっています。外有毛細胞は全部で約1万2000個あります。外有毛細胞は特殊な細胞で、興奮すると伸び縮みするという特性があります。小さな音を聞いたときにはその音に合わせて伸び縮みして基底板の振動が増幅され、内有毛細胞がより興奮しやすくなるため、小さな音の聞きとりに貢献しています。

4.有毛細胞が興奮すると、神経伝達物質がシナプスから放出され、蝸牛神経に興奮が伝えられます。蝸牛神経は約3万本あります。蝸牛神経の多くは内有毛細胞に付いており、複雑な音情報を伝えやすくなっています。蝸牛神経は脳幹(のうかん)の蝸牛神経核に到達し、さらに脳幹、中脳下丘(ちゅうのうげきゅう)、古い大脳基底核にある内側膝状体(ないそくしつじょうたい)を経て聴皮質に情報がとどきます。そして音の情報、たとえばことばなどを聞きとることになります。大脳は右半球と左半球とからなりますが、ことばの情報は左半球が中心に分析理解し、音楽は左右の半球が担当しています。


■バランスをとる(平衡覚)
 からだを回したり、傾けたり、跳んだりはねたりすると、蝸牛とともに内耳にある三半規管(さんはんきかん)と耳石器(じせきき)がその動きを感じます。三半規管は、輪のようになった半規管が3次元の各方向を構成するように、立体的にx-y-z軸のような構造をしています。からだを回すと、回る方向と同じ平面の半規管の中の内リンパが動き、その液体の動きによってクプラという、感覚器の上に位置するゼラチンのようなものが傾き、その傾きの刺激を有毛細胞(感覚細胞)が感じて興奮します。その興奮が前庭(ぜんてい)神経へ伝わり、延髄の前庭神経核にとどきます。

 いっぽう、からだが傾いたり、電車に乗ったときのような水平方向の移動、エレベーターのような垂直方向の動きは耳石器が感じます。耳石器は、カルシウムでできた“耳石”が有毛細胞(感覚細胞)の上に層をなしてならんでいます。上下、傾斜の動きが加わるとこの“耳石”がずれ、それを有毛細胞が感じて前庭神経へ伝えます。このようにして前庭神経にとどいた情報は、延髄(えんずい)にとどいたのち複雑なネットワークを形成して大脳へ伝わります。
 平衡覚の情報は、大脳の頭頂葉にある前庭知覚中枢へ伝わります。このバランスの情報は同時に反射経路の信号として、眼球運動の脳幹の神経核へ伝わり、眼球運動を調節します。また脊髄(せきずい)へ伝わり、頸(けい)部の筋肉、上下肢の筋肉へとどき、頭部や手足の運動にも影響を与えます。さらに自律神経の中枢にも伝わり、乗り物酔いのように視覚情報とズレのある信号や過度の信号がくると気分がわるくなります。このバランス信号は小脳、(中脳の)赤核(せきかく)、大脳の眼球運動の皮質中枢にも伝わり、からだのバランスを総合的に維持するためにはたらきます。
 中耳の中には、このほかに顔面神経も走行しています。顔の表情運動をつかさどる運動神経ですが、舌前方の味覚、涙の分泌、耳下腺や顎下(がくか)腺の分泌などを担当する自律神経もその中を走っています。

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