耳の病気の症状 家庭の医学

 耳の症状は、耳の構造と深い関係があります。「聞く」「バランスをとる」「表情をつくる」「味がわかる」などの機能が病気によって障害を受けます。

■聞く障害と症状
 聞こえがわるくなることを「難聴」といいます。難聴は①伝音難聴、②感音難聴(内耳性)、③感音難聴(神経性)、④中枢性難聴に分けられます。

□伝音難聴
 外耳道(がいじどう)、鼓膜(こまく)、耳小骨(じしょうこつ)の病気によって生じます。音の増幅や伝わりが障害されることが原因です。耳小骨が振動しにくい場合などでは低音周波数がより難聴になります。
 伝音難聴では音を増幅するとよく聞こえ、補聴器がきわめて有効です。手術や処置による改善も可能です。

□感音難聴(内耳性)
 多くは蝸牛(かぎゅう)の中の有毛細胞やその周辺の組織の障害により生じ、内耳性難聴と呼ばれます。小さな音が聞こえなくなり、大きな音は逆に響いて聞こえたりします。音もゆがんで聞こえることがあり、耳鳴りを伴うことも少なくありません。
 メニエル病では初期には低音域が障害されやすく、進行すると全周波数が障害されます。老人性難聴、騒音性難聴、薬剤性難聴では高音域から障害されるのが特徴です。
 内耳性難聴もきわめて重度の場合を除き補聴器が有効ですが、障害周波数や音のゆがみに配慮した調整が求められます。重度の難聴では人工内耳が有効です。

□感音難聴(神経性)
 この障害の一部は、蝸牛より中枢の蝸牛神経や脳幹の神経経路の障害で生じます。難聴の程度は軽度から重度までさまざまですが、難聴が軽くてもことばが著しく聞き取りにくくなります。
 神経性難聴も補聴器はある程度有効です。

□中枢性難聴
 聴覚中枢の障害により生じます。脳血管障害によることが多く、ほかに外傷、腫瘍などにより生じます。
 中枢性難聴には補聴器は役に立ちません。

■バランス(平衡覚)の障害
 三半規管や耳石器の障害で、目が回る(めまい)、ふらつく(バランスの異常)などの症状が生じます。その代表がメニエル病です。目が回るときの眼球を見ると、実際に律動的に眼球が動いていることが観察され、これを眼振(がんしん)といいます。同時にからだのバランスがとれなくなりますが、これは手足の筋肉につながるバランスをコントロールしている神経システムが障害されるためです。めまいが治る過程では、からだがフラフラすることが長く続く場合もあり、特に高齢者であきらかです。
 めまい症状として、立ったときに目の前が暗くなるなどの症状を伴う場合は耳の病気ではなく、起立性低血圧など自律神経系の病気が考えられます。また、手足に力が入りにくい、顔半分の動きがわるい、物が二重に見えるなど、他の神経症状を伴う場合には、脳梗塞など頭蓋内の病気を考えます。心因性のめまいもあり、フラッとする感じをもちやすく、脳の病気ではないかとの不安からパニック障害(広場恐怖症)に発展することもまれにみられます。

■顔面神経の障害
 顔面神経の運動障害を顔面神経まひといいます。
 顔面神経は、脳幹の顔面神経核から内耳道・中耳内を通り、耳下腺(じかせん)の中を通って、顔の表情筋に到達しています。したがって、脳幹、内耳道、中耳、耳下腺など広い範囲の病気によって顔面神経まひが生じます。この場合、ひたいからくちびるまで広い範囲で一側にまひが出現し、同時に舌前方の味がしない、涙が出ないなどの障害も伴います。顔面神経まひの多くはベルまひにより生じ、2割程度がハント症候群(帯状疱疹〈たいじょうほうしん〉ウイルス感染の再活性化)、一部が脳梗塞(こうそく)や腫瘍により生じます。

(執筆・監修:東京大学大学院医学系研究科 教授〔耳鼻咽喉科・頭頸部外科〕 山岨 達也