低血圧症〔ていけつあつしょう〕 家庭の医学

 一時的に血圧が下がるのは、心臓や血管のはたらきが弱ったときとか、大出血のあとにくるものです。
 いつも血圧が異常に低い状態というのは、①体質的に低い場合、②慢性の感染症、悪性腫瘍、重い貧血、③内分泌の病気(アジソン病、シモンズ病、粘液水腫など)、④栄養失調、⑤神経の病気などで起こります。
 ふつう、血圧が低いというのは最大血圧が100mmHg未満を指しますが、一般に男性よりも女性のほうが5~10mmHgぐらい低く、ことに若い人では、もっと低くてもなにも自覚症状がなければ正常です。いくつぐらいなければ異常だとは、決めにくいものです。
 血圧が低くなる原因のわからない、体質的に血圧が低い場合を“本態性低血圧”といいます。このような人のなかで、寝ている状態では血圧が低くない場合もあり、血管の緊張の弱い人だと起立した姿勢では血圧が低くなることから“起立性低血圧”と呼ばれます。立ち上がるときに、めまいや立ちくらみを感じることが多く、動悸(どうき)をうったえる人もあります。
 起立性低血圧のような血圧調節障害は、学童が長期間起立していると血圧が低下し“脳貧血”で倒れることがあるように、若い人にしばしばみられます。これは、血管迷走神経反射といって、反射的に血圧や心臓を抑制するはたらきをもつ副交感神経系の異常な緊張亢進(こうしん)によるものです。
 このような神経反射が原因で一時的に低血圧を起こし失神する状態として、ほかにせきや排尿時の失神が知られています。せきや排尿という行為に伴い、一時的に血管迷走神経反射が作動して、血圧低下をきたします。アルコールを飲んだり、お風呂からあがったりしたあとですでに心拍数が上がっている状態が存在すると、このような神経反射が起こりやすいのです。これは病気ではありません。
 中枢神経の障害で手足の動きがわるく、尿の排泄(はいせつ)が順調でない人や糖尿病の人にも起立性低血圧がありますが、この場合には、立ちくらみが起こって血圧が下がっても脈が速くならず、反射経路のわるいことが推測されます。神経症状のひどい高齢者では、ホルモン療法などをおこないますが、治療効果が上がらず、だんだん衰弱することもあります。
 体質的に血圧が低いのは、やせ型の人に多いのですが、血圧が低くても、べつになんの症状もない人もあり、その場合はなにも治療の必要はありません。
 疲れやすい、めまいがする、動悸がするなどの、いろいろうったえのある人は、ひとまず医師の診察を受けて、ほかの病気でないと診断されたら、時には血圧を高める薬を使うこともありますが、多くは神経症の治療ですみます。低血圧のために生命にかかわることは少ないので、症状がなければほうっておいてよいです。
 一般療法としては、体操、マッサージ、冷水摩擦などがよく、やせた人には高カロリー、高たんぱく食をとらせます。太った人には、過剰の食事は禁物です。これでも症状がなくならない人は、血圧を上げる薬、鎮静薬などを服用します。
 起立性低血圧の人は、腹筋を強くする運動をしたり、立ち上がる前に足を屈伸してから、ゆっくり立つようにしたり、ゴムの入った長いストッキングを着用して下肢に血が下がらないようにしたりします。それでもよくならない人は、血圧を上げる薬や、神経疾患のときと同様に、水や塩分を体内にためるようなホルモン薬を使うこともあります。

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