原発性副甲状腺機能亢進症〔げんぱつせいふくこうじょうせんきのうこうしんしょう〕 家庭の医学

 副甲状腺の良性腫瘍(腺腫)や過形成、まれにがんによって副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に分泌されて血液中のカルシウムが増加する病気(高カルシウム血症)です。一般にがんの場合には、PTH濃度や高カルシウム血症の程度は高くなります。高カルシウム血症の症状には、脱力感、疲れやすいなどのほか、消化器症状として口渇、吐き気、消化管潰瘍、腹痛、便秘などがあります。
 骨からカルシウムが失われるため骨が弱くなり、骨痛、関節痛、時に病的骨折(軽い打撲などで簡単に骨折すること)を呈します。脊椎骨の変型で身長が低くなることもあります。骨の病変はX線写真で特徴的な所見(線維性骨炎、骨吸収〈骨からカルシウムが溶け出すこと〉など)がみられます。
 また、尿へのカルシウム排泄(はいせつ)も増加し、腎臓結石などをくり返すことがあります。高カルシウム血症が長く続くと腎臓の機能が障害されて腎の濃縮力が低下します。この結果、尿量が増加すること(多尿)もあります。
 高カルシウム血症が軽度であれば無症状で、健康診断などで偶然に発見されることもまれではありません。高カルシウム血症の程度がひどくなると集中力、記憶力の低下、さらにけいれんや昏睡(こんすい)に至ります。カルシウム濃度が14mg/dL以上になると危険で、緊急な処置が必要です。

[診断]
 高カルシウム血症があって血中PTH濃度が高いこと、血液中リン濃度が低いことが特徴です。尿中のカルシウム排泄も増加します。そのほか、血中のビタミンDは増加し、オステオカルシンやアルカリホスファターゼなど骨形成の指標となる物質、あるいは尿中のピリジノリン(骨吸収の指標)も増加します。約60%に超音波(エコー)検査で肥大した副甲状腺がみられます。
 放射性物質で目印をつけたMIBIを用いるシンチグラフィという検査法で腫瘍の存在を知ることもできます。さらに高カルシウム血症は一部のがん、一部の甲状腺機能亢進(こうしん)症、ビタミンD中毒、カルシウムセンサーの異常症などでみられ、これらを鑑別します。がんの一部では、PTHと同じような作用のあるホルモン(PTHrp)が分泌され、これが骨に作用して高カルシウム血症が起こります。この場合にはPTH自体は増加しません。

[治療]
 副甲状腺機能亢進症の治療は、手術によって腫瘍を摘出することが原則で、これにより高カルシウムに伴ういろいろな症状は回復します。手術をするかどうかは高カルシウム血症の程度、年齢、症状などで決まり、血中カルシウム濃度が11mg/dL以上で、骨病変のある場合や腎結石をくり返すような場合には手術がすすめられます。「副甲状腺がん」や「副甲状腺摘出術不能または術後再発の原発性副甲状腺機能亢進症」による重度の高カルシウム血症に対しては、カルシウム感知受容体作動薬のシナカルセトが適応となりました。
 なお、副甲状腺機能亢進症や腫瘍に伴う高カルシウム血症が高度になると、意識障害、高カルシウム血症クリーゼなど重篤な状態となります。このような場合には血中カルシウム濃度を急速に下げる必要があり、多量の生理的食塩水の点滴と利尿薬で尿中へのカルシウム排泄の増加をはかります。また、骨粗鬆(こつそしょう)症に対してビスホスホネートという薬剤で骨からのカルシウム放出を抑制することもおこなわれます。

(執筆・監修:東京女子医科大学 常務理事/名誉教授 肥塚 直美)
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