ヒスタミン(H2)受容体拮抗薬(H2RA)のラニチジンは、2019年に原薬から発がん物質のN-ニトロソジメチルアミン(NDMA)が基準値を超えて検出されたことを受け、国内では2021年までに市場から回収・販売中止となった。しかし、同薬が全世界で広く使用されていた実態に鑑み、疫学的リスクの特定が重要な課題である。韓国・Yonsei University College of MedicineのSeng C. You氏らは、欧米およびアジアの118万例超の医療データを用いてラニチジンと他のH2RA使用に伴うがんリスクを比較検討するネットワークコホート研究を実施。他のH2RA使用と比べラニチジン使用は、がんのリスク上昇と関連していなかったが、長期的な影響についてはさらなる研究が必要とJAMA Netw Open2023; 6: e2333495)に報告した。(関連記事「発がん物質検出でラニチジン自主回収」「発がん物質検出でニザチジンも自主回収」)

ランダム効果モデルを用いたメタ解析でリスクを比較

 You氏らは、欧米およびアジアの医療データベース12件(保険請求データ3件、電子カルテ9件)を検索。1986年1月~2020年12月にラニチジンまたは他のH2RA3剤(ファモチジン、ラフチジン、ロキサチジン)を30日以上使用し、登録前の1年間はH2RA不使用だった、がん既往がない成人患者118万3,999例のデータを抽出し、ランダム効果モデルを用いたメタ解析によりがん発症のハザード比(HR)を求めた。なおシメチジンはがんリスク低下が、ニザチジンはNDMA検出が報告されていたため、比較対象から除外した。

 また、大規模な傾向スコアマッチングを行い、各群21万7,406例における解析を実施。未知の交絡因子を調整するため119項目の陰性対照アウトカムに基づき経験的較正を行った。

 主要評価項目は非メラノーマ皮膚がんを除く全がんの発症率とし、副次評価項目は甲状腺がんを除く全てのがん、16のがんサブタイプ(乳がん前立腺がん肺がん大腸がん、膀胱がん、肝臓がん、白血病、膵臓がん、胃がん、口唇・口腔・咽頭がん甲状腺がん子宮体がん卵巣がん食道がん、胆嚢・胆道がん、子宮頸がん)の発症率とした。

傾向スコアマッチング・較正後のリスクに有意差なし

 118万3,999例のうち、ラニチジンの新規使用者は90万9,168例(平均年齢56.1歳、女性55.8%)、他のH2RAの新規使用者は27万4,831例(同58.0歳、53.1%)だった。1,000人・年当たりのがん粗発症率は、それぞれ14.30、15.03だった。

 傾向スコアをマッチング後の各群21万7,406例(平均年齢59.4歳、女性64.4%)においても、がん発症率はラニチジン群(1,000人・年当たり15.92)と他のH2RA群(同15.65)で同等、経験的較正を加えたメタ解析におけるハザード比は1.04(95%CI 0.97~1.12)と有意差はなかった。

 アジアおよびスペインのデータにおいて、ラニチジン群でがん発症リスクが高かったが、経験的較正後に関連は消失した。

 副次評価項目に関しても、経験的較正後にはラニチジン使用とがん発症との有意な関連は認められなかった。

 以上から、You氏らは「大規模な国際データを用いたネットワークコホート研究で、ラニチジン使用は他のH2RA使用と比べて、がんリスクを上昇させなかった」と結論。ただし「長期的な影響についてはさらなる研究が必要である」と付言している。

(小路浩史)