Dr.純子のメディカルサロン

職場のストレスで耳鳴り
~周囲とコミュニケーションを~

 飛行機で高度が変化したときに起こるような耳閉感や耳鳴りを覚え、仕事に集中できずに困るという相談をしばしば受けます。耳鳴りは突然起きるので、いつ起きるかが心配でストレスになるという人もいます。こうした症状は職場のストレスに起因するケースがあり、改善に向けて上司らと話し合ってみてはいかかでしょうか。

(文 海原純子)
ストレスに悩む社員(イメージ)

ストレスに悩む社員(イメージ)

 ◇慣れない仕事、相談もできず

 2か月ほど前から、これまで経験がない分野の業務が増えた30代前半のAさん。分からないことを上司に聞きたいのですが、上司も忙しそうなので、つい遠慮してしまうそうです。Aさんにとっては気軽に相談できるような雰囲気の上司ではないといいます。他に業務の詳細を理解している人はいません。先輩に聞く場合もあるのですが、それを基に仕事を進めると、後で上司から「駄目だ」と指摘されたりします。

 Aさんの部署は人数が少なく同期の社員もいないので、話し合える相手もなく、誰に相談しようかと悩んでいたところ、月曜日の朝、出勤しようとした時に耳閉感が生じました。スキューバダイビングで覚えた耳抜きの要領で飲み物や唾を飲み込んだりして耳閉感を軽減しようとしましたが、改善しませんでした。その日は出社したものの、耳の閉塞(へいそく)感は一日中続いて仕事に集中できず、午後からは耳鳴りも起こり、翌日の午前中に耳鼻科を受診しました。検査では聴力などには変化がなく、ストレスではないかとして休息を取るよう提案され、ビタミンB12などを処方されたそうです。

 産業医として面談した際は、休職についての相談を行いました。Aさんの話では、土曜や日曜などは特に問題となるような症状はなく、職場にいるときだけ耳鳴りの他に頭痛や目の焦点が合いにくいようなめまいが起きたといいます。

 ◇症状の再発を防ぐために

 業務の変化が起きた頃から症状が出始めたことを踏まえると、適応障害と思われました。適応障害の人から、こうした耳の症状の訴えを聞くことがしばしばあったためです。クリニックを開業している耳鼻科の専門医は「こうした症状の人はかなり長引く場合もあり、その要因として精神的な背景も考えられるので、心理的なサポートが必要と感じている」としています。

 職場のストレスによる症状の治療には「ストレス要因から離れて休息を取る」ことが大事ですが、それだけでは不十分です。元の環境に戻ったとき、症状がぶり返してしまうからです。

 Aさんの部署の場合は、環境改善、つまり業務で理解できない部分を上司に聞ける環境をつくったり、上司が部下の意見を聞く姿勢を持ったりすることや、Aさん自身が分からないときに自分の気持ちを伝えるコミュニケーション力を付けることなどが必要になります。Aさんのように自分の気持ちを抑えて我慢していると、体の症状が起こる引き金になりますから、自分の気持ちを表現できるような訓練も大事です。

 ◇気持ちを抑え込まない

 上司に相談しにくい・話しにくい、仕事の進め方が分からないなどの悩みを抱えていたり、嫌だ・理不尽だと感じることがあっても黙って我慢していたりするうちに、次第に自分の気持ちが分かりにくくなり、うつ状態に陥ることもあります。気持ちを抑えているうちに、体に症状が出てくる場合もあります。そうなる前に「自分は何か我慢していないか」「抑え込んでいないか」などと点検してほしいと思います。

 また、毎日「何か面白くない」気持ちがしたり、イライラや怒りっぽくなったりしているときは、心に鬱憤(うっぷん)がたまっているサインです。相談できる人がいればいいのですが、そんな人が身近にいないときは、まずノートに気持ちを書いてみましょう。書くことは表現することです。書いて自己表現し、それを自分で見直せば、思考が整理されるはずです。

 じっと座って悩むのではなく、散歩したり軽い運動をしたりするのもお勧めです。気分がリセットできます。気持ちを一度吐き出した後には、今後の行動などを考える心のゆとりが生まれます。

 Aさんの場合は、休養を取った後、職場で上司とのコミュニケーションを改善できるよう話し合いました。その結果、新たに相談の機会が設けられることになりました。互いの負担を少なくするため、あらかじめ相談の日にちや時間帯を決めておくそうです。(了)

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