水頭症は、脳脊髄液の循環障害によって頭痛嘔吐などの症状を来す疾患だ。慢性水頭症のうち最も患者数が多い特発性正常圧水頭症(iNPH)は、アルツハイマー病パーキンソン病とともに高齢者のcommon diseaseとして認知されるべき疾患だが、名称の複雑さにより認知度は低く、見逃されることが少なくない。スウェーデン・Sahlgrenska Academy at University of GothenburgのMats Tullberg氏らは、システマチックレビューと4年にわたるウェブ会議により慢性水頭症を新たに7分類し、iNPHを"Hakim's disease(ハキム病)"に変更することを提案したとWorld Neurosurg2023; 183: 113-122)に発表した。

若年者では頭蓋内圧上昇に携わる症状、高齢者では平衡障害を呈する

 慢性水頭症のうち1965年に提唱されたiNPHは、75歳前後で①歩行・平衡障害、②物忘れ、③尿失禁―の3つの症状が徐々に進行し、やがて介護が必要になる。iNPHの潜在患者は高齢者人口の1%と推定されるが、専門家以外にはいまだ浸透していない。昨今の研究により病態が解明され、必ずしも「特発性(原因不明)」ではなく、全例が「正常圧」に該当しないなどの理由から、国際的に名称変更を求める声が高まっていた。

 2019年5月の国際水頭症学会主導のガイドライン改訂に向けた第1回会合では、まず名称を整理する必要性について認識をすり合わせた。2020年1月23日と2021年3月3日にPubMed、Scopus、Cochrne libraryに収載された論文から、"成人の慢性水頭症""分類"およびその関連用語をキーワードに検索し、4,043報を抽出。2人以上の査読者が論文をレビューし、最終的に慢性水頭症の名称に関連する33報をメタ解析に組み入れ、48の異なる疾患名を同定した。

 これらの疾患名を発症時の年齢や症状、病態生理などに基づいて整理したところ、臨床像に重複や類似点が認められた。

 具体的には、若年層では頭蓋内圧(ICP)の上昇を示唆する痙攣や失神、頭痛などの症状が、高齢者では平衡障害などHakim四徴候(歩行・平衡障害、物忘れ、脳失禁)に類似した症状が見られ、加齢に伴い症状が変化する傾向が示された。

年齢と臨床症状から慢性水頭症を7つに分類

 Tullberg氏らは今回、臨床症状と年齢から慢性水頭症を7グループに分類した。

①Hakim's disease(ハキム病)

 従来のiNPH。発症年齢は平均75歳で、歩行・平衡障害、物忘れ、尿失禁の3つの症状が進行する。

 

②Early midlife hydrocephalus

 発症年齢は40~50歳代。ハキム病と同じ症状に加え、頭痛、視野異常、めまい、失神などが生じる。脳室拡大が顕著。

 

③Late midlife hydrocephalus

 60~75歳までに発症。ハキム病の症状に加え、頭痛、視野異常なども呈する。脳室拡大が顕著。

 

④Secondary hydrocephalus

 くも膜下出血脳腫瘍、重症頭部外傷髄膜炎などの脳疾患に続いて発症する。

 

⑤Compensated hydrocephalus

 脳室拡大が顕著であるにもかかわらず、頭痛などの軽微な症状出現または無症状が大半。山形大学の研究グループが提唱したasymptomatic ventriculomegaly with features of iNPH on MRI(AVIM)も含まれる(関連記事「"境界型"正常圧水頭症、発症まで観察を」)。

 

⑥Genetic hydrocephalus

 家系内で慢性水頭症が複数発症するなど、遺伝的要因が強く示唆される、または疾患関連遺伝子が同定されたもの。

 

⑦Transitioned hydrocephalus

 幼少期に水頭症と診断され、成人期に移行したもの。

 

 同氏らは「iNPHをハキム病と改めることで、アルツハイマー病パーキンソン病と同等のレベルまで国際的な認知度を高め、重症化するまで見逃される患者の拾い上げに貢献したい」と展望している。

(渡邊由貴)