手術で治る認知症―特発性正常圧水頭症
~見極めるポイントは歩行障害(洛和会音羽病院正常圧水頭症センター 石川正恒医師)~
特発性正常圧水頭症(iNPH)は、歩行や認知障害、尿失禁などが表れる病気で、65歳以上の1%程度に起こるとされるが、「手術で治る認知症」とも言われる。洛和会音羽病院(京都市)正常圧水頭症センターの石川正恒医師に聞いた。
特発性正常圧水頭症に特徴的な歩行障害
▽歩行障害が特徴
脳と脊髄の表面に循環している髄液が何らかの原因で頭蓋内にたまり、脳が圧迫されて起こる病気が水頭症。髄液の通り道が狭く、頭蓋内の圧力が高くなり頭痛や嘔吐(おうと)を起こすタイプは子どもに多い。一方、髄液の吸収悪化などで起こるタイプは大人に多く、頭蓋内の圧力は正常範囲で脳腫瘍などの病気がないのがiNPHだ。
まず歩行障害が表れることが多く、他の認知症と区別するポイントになる。すり足で、歩幅も小刻みになり、爪先を外側に開いて歩くのが特徴だ。
「アルツハイマー病では通常、歩行障害は見られません。パーキンソン病は歩行障害が起こりますが、iNPHではパーキンソン病で見られる手の震えは起こりません。また、iNPHの症状は、物忘れ、自発性や意欲、集中力の低下などで、怒りっぽくなるなどの人格の変化は見られません」と石川医師は違いを説明する。
▽手術で髄液を出す
症状からiNPHが疑われる場合、コンピューター断層撮影(CT)で検査などを行う。脳室の拡大などがあれば可能性が高い。さらに腰の骨の間に針を入れて髄液を少し抜き、症状の変化を確認する検査を行う。
手術は、過剰な髄液を出すためのカテーテル(管)を体内に埋め込み、脳への圧迫を開放する。頭の骨に小さな穴を開け、脳室から腹部にある空間腹腔(ふくくう)へカテーテルを挿入する手術と、腰の骨から腹腔までカテーテルを挿入する手術が多く行われる。
術後の検査やリハビリなども含め、7~10日間程度の入院となる。手術で歩行障害は約80%、認知症は約70%、尿失禁は約50%の割合で改善する。「買い物でお釣りの計算ができるようになった」など、改善が見られるケースも多いという。
「治療後は運動や外出をして、刺激を受けることが大切です。また、便秘で腹圧が高まると、おなかに通したカテーテルが圧迫され、髄液が出にくくなるので注意が必要です」とアドバイスする。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2022/01/20 05:00)
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