腸内細菌叢が脳や心臓など多くの臓器に影響を与えることは知られているが、皮膚も例外ではない。加齢による腸内細菌叢の変質が、免疫応答の変化および炎症を惹起し、免疫機能の低下や病態の進行に関連することも明らかになっている。では、たるみやしわなど老化を顕著に表す顔面の皮膚と腸内細菌叢の関連はどうか。中国・Chengdu University of Traditional Chinese MedicineのMulan Chen氏らはメンデルランダム化(MR)解析により両者の因果関係を検討。8つの腸内細菌分類群が顔面の皮膚老化と正の相関を示し、3つの分類群が負の相関を示すことをSkin Res Technol(2024; 30: e13636)に報告した。(関連記事:「腸内細菌叢でアトピーなどのリスクを推測」)
解析対象は44万超例のゲノムワイド関連データ
動物実験レベルでは腸内細菌叢と皮膚の老化の関連を示唆する成績が幾つか報告されているが、両者の関係性は明らかになっていない。Chen氏らは腸内細菌叢と顔面の皮膚老化との因果関係を明らかにするため、二標本MR解析を行った。
解析に用いたデータは、腸内細菌叢は欧州の多民族(24コホート・1万8,340例)を対象にしたMiBioGenコンソーシアムのゲノムワイド関連研究(GWAS)のメタ解析から、顔面の皮膚老化については英国のUK BiobankのGWAS(成人42万3,992例)から得た。腸内細菌は未知の分類を除く196分類群(9門、16綱、20目、32科、119属)に分けた。腸内細菌叢と強い相関を示す一塩基多型(SNP)を抽出し、操作変数(IV)として用いた。
臨床研究と相反する結果も
逆分散加重法(IVW)の結果、9分類群(Verrucomicrobia門、Lactobacillaceae科、Lactobacillus属など7つの属)が顔面の皮膚老化と有意な正の相関を示した。一方、Victivallaceae科、Eubacterium coprostanoligenes group属、Parasutterella属の3分類群は有意な負の相関を示し、潜在的な保護因子であることが示唆された(表)。主解析であるIVWに加え、MR-Egger法、加重平均法、weighed mode法も行い、いずれも一貫した結果が得られた。
表.顔面の皮膚の老化と関連のある腸内細菌叢分類群(IVWによるMR解析)
(Skin Res Technol 2024; 30: e13636を基に編集部作成)
さらにMR解析結果の頑健性を確認するために、MR-Egger Interseption法とMR-PRESSO法、Leave-one-out法による感度分析を行った。その結果、顔面の皮膚老化と負の相関を示した3分類群の解析結果は信頼性が高いことが示された。
正の相関を示した9分類群で同様の分析を行ったところ、Butyricimona属で水平多面発現(Horizontal Pleiotropy)が示唆され、異質性も認められたため、Chen氏らは「同属は皮膚老化と因果関係がない」と結論した。他の8分類群は水平多面発現も異質性も示さなかった。
これらの結果から、同氏らは「MR解析により、腸内細菌叢196分類群のうち、3分類群は顔面の皮膚老化に対する保護因子であり、8分類群は危険因子であることが示された」と結論した。ただしLactobacillus属については、今回の解析結果と相反する「皮膚老化を抑制した」という臨床試験成績が報告されていることから(Curr Issues Mol Biol 2022; 44: 526-549)、この矛盾を検証するためにはさらなる調査研究が必要としている。
(編集部)