岐阜大学大学院脳神経科学講座精神医学分野教授の塩入俊樹氏らは、2012~18年度の同大学医学部6年生637例を対象に、医学部入学前後の成績など17因子を用いたロジスティック回帰分析により医師国家試験(初回受験)の予測合格率(predictive pass rate;PPR)を算出し合格の予測因子を検討。その結果、入学時から6年生終了時までの5時点でそれぞれ2~6個の合格予測因子が判明し、PPRを用いて不合格のリスクが高い学生を低学年時から特定できる可能性が示されたとBMC Med Educ2024; 24: 930)に発表した。

入学時年齢と高校所在地が6年一貫して合格に影響 

 解析対象は、2012~18年度の岐阜大学医学部6年生637例。入学前の7因子〔性、入学時の年齢、出身高校の所在地(岐阜県または愛知県、両県外)、高校の種類(公立、私立)、高校の学力レベル(入学難易度)、高校3年間の成績(5段階評価GPA得点)、大学入学共通テストの成績〕と入学後の10因子〔英語(TOEFL)、一般教養科目、1年時の基礎科学、2年時の基礎生物医学、3~4年時の臨床実習前医学教育、4年時の臨床実習前共用試験(CBT-IRT)、4年時の臨床実習前客観的臨床能力試験(Pre-CC OSCE)、5~6年時の診療参加型臨床実習、6年時の卒業試験の各成績、留年の有無〕の計17因子を用いたロジスティック回帰分析により、入学時と1、2、4、6年生終了時の5時点における医師国家試験(初回受験)の合格予測因子を特定しPPRを算出した。

 合格者と不合格者の間で有意差が認められた有意な合格予測因子は、入学時は2因子(入学時年齢、高校所在地)、1年時は3因子(入学時年齢、高校所在地、基礎科学の成績)、2年時は3因子(入学時年齢、高校所在地、基礎生物医学の成績)、4年時は4因子(入学時年齢、高校所在地、CBT-IRT、臨床実習前医学教育の成績)、6年時は6因子(入学時年齢、高校所在地、CBT-IRT、臨床実習前医学教育、卒業試験、診療参加型臨床実習の成績)だった。

 有意な合格予測因子は進級とともに増加し、入学時の有意な予測因子として特定された入学時年齢と高校所在地の2因子は、以降の全ての時点でも有意な予測因子だった。特に、入学時年齢は一貫して試験合格に対する影響が大きかった。

多変量モデルの予測合格率で不合格高リスク群を特定 

 次に、学生を不合格の高リスク群(PPR 95%未満)と低リスク群(PPR 95%以上)に分けて検討した結果、高リスク群の学生数は入学時の637例中193例から6年生終了時には104例と46.1%減少していた。実際の合格率は、6年生終了時の低リスク群で99.2%(533例中529例)だったのに対し、同時点の高リスク群では64.4%(104例中67例)だった。

 PPRの信頼性の検討では、入学時→6年生終了時の6年間でPPRの感度(82.9%→92.7%)、特異度(72.3%→89.3%)、尤度比(3.0→8.6)はいずれも上昇し、偽陰性率(1.6%→0.6%)および陰性的中率(98.4%→99.2%)はそれぞれ超低値および超高値を維持していた。

 以上を踏まえ、塩入氏らは「医師国家試験(初回受験)の有意な合格予測因子が判明し、ロジスティック回帰モデルにより算出したPPRを用いて不合格者を減らせる可能性が示された」と結論。「模擬試験の成績などを用いた単変量リスク分析と比べて、PPRのような多変量リスク分析はより効果的な学生への支援につながる可能性がある。今後、長期の前向き研究を行ってPPRの有効性を確認する必要がある」と付言している。

(医学翻訳者/執筆者・太田敦子)