主婦パートの働き控えで企業が人手不足に陥る「年収の壁」対策として、厚生労働省は年収156万円未満を対象に企業側が厚生年金保険料の負担割合を増やせる特例制度の創設を打ち出した。各企業の労使間の交渉次第で人手不足の解決につながる可能性があるが、有識者からは「パートだけ保険料を優遇するのはおかしい」「大企業しか活用できない」など実効性を疑問視する声が出ている。
 現行では、サラリーマンの扶養に入る配偶者は、「第3号被保険者」として、保険料を払わなくても老後に基礎年金(国民年金)を受け取れる。このため、主婦パートは保険料負担が発生する「年収106万円」や「同130万円」に加え、配偶者特別控除が満額受けられる「同150万円」も意識して就業時間を抑制する傾向にある。厚労省によると、106万円の壁を意識した働き控えは推計で約65万人に上る。
 厚労省は2025年度末までの対応策として、厚生年金に新規加入したパートの手取りが減らないよう賃上げに取り組む企業に助成金を支給している。ただ、保険料の負担を税金で肩代わりすることを財務省が問題視。25年の次期年金制度改革で、制度的な解決を図ることになっている。
 特例制度は、従業員と企業で折半する厚生年金保険料について、働き控えが想定される年収156万円未満を対象に企業側の負担割合を増やせる仕組みだ。しかし、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)年金部会では賛成意見の一方、「資金力のある大企業がパートを多く集め、地方の中小企業との格差が広がる」との懸念も示された。
 中小企業が取り残されないよう、与野党は、他省庁が取り組む対策を含めた追加支援を求めており、政府は引き続き対応策を検討する方針だ。 (C)時事通信社