畜産業界では霜降り肉は評価が高いが、ヒトにおいては筋肉内に脂肪塊が隠れている骨格筋内脂肪(IMAT)例は、BMIに関係なく心筋梗塞や心不全で死亡または入院するリスクが高いことが指摘されている。しかしIMATの脂肪量は人によって大きく異なり健康に及ぼす影響については明らかでない。米・Brigham and Women's HospitalのAna Carolina do A.H. Souza氏らは、669例を対象にさまざまな種類の脂肪が心血管または微小血管にどう影響し、将来の心筋梗塞や心不全、死亡のリスクと関連するのかを評価。IMAT増加と冠微小循環障害(CMD)は関連し、BMIなどにかかわらず将来の心疾患発症に悪影響を及ぼすことをEur Heart J(2025年1月20日オンライン版)で初めて明らかにした。
669例中307例は肥満者
初期の報告によると、IMATはインターロイキン(IL)-6や腫瘍壊死因子の発現を増加させる炎症性セクレトームを有し、隣接する筋肉組織の代謝機能やインスリン感受性に影響を及ぼす可能性があるという。しかしIMATが心血管疾患(CVD)イベントに及ぼす影響については明らかでない。
またCMDは、陽電子放射断層撮影法(PET)を用いて非侵襲的に定量化し、心筋灌流画像が正常であるにもかかわらず、冠血流予備能(CFR)が低下(2.0未満)している状態を指す。BMIにかかわらずCMDは、将来の心不全、心筋梗塞、死亡のリスクとの関連が指摘されている。
今回、Souza氏らは、筋骨格の質・量とCMDが関連し、BMIとは独立して将来のCVDイベントに影響を及ぼすとの仮説を立て検討した。
対象は、PETで正常な血流と左室駆出率の維持が示された患者669例〔年齢中央値62.6歳(範囲53.7~71.6歳)、女性69.8%、非白人46.2%、BMI中央値29.2(範囲25.1~34.7)、肥満者(BMI 30以上)307例、CFR中央値2.1(範囲1.7~2.6)、CMD 43.0%〕。死亡、非致死性心筋梗塞による入院または心不全の複合とした主要心血管イベント(MACE)の発生を、中央値5.8年(範囲3.2~7.1年)にわたって追跡した。
CFRは負荷時/安静時の心筋血流として算出、皮下脂肪、骨格筋、IMATの評価にはPET/CTを用いた。
CMD+IMAT高値例の調整済み年間MACE発生率は5.1%と最も高い
解析の結果、BMIは皮下脂肪およびIMATと高い相関関係が認められ(順にr=0.84、r=0.71、いずれもP<0.001)、骨格筋とは中程度の相関を示した(r=0.52、P<0.001)。
骨格筋の減少とIMATの増加は、BMIや皮下脂肪とは異なりCFRの低下と独立した関連が見られた(調整済みP=0.03、P=0.04)。
調整解析では、CFRの低下およびIMATの増加はいずれもMACE発生の増加と有意に関連していた〔順に-1U CFR当たりのハザード比(HR)1.78、95%CI 1.23~2.58、調整済みP=0.002、+10cm2 IMAT当たりのHR 1.53、同1.30~1.80、調整済みP<0.0001〕。
一方、骨格筋と皮下脂肪の増加は保護因子だった〔順に+10cm2骨格筋当たりのHR 0.89、同0.81~0.97、調整済みP=0.01、+10cm2皮下脂肪当たりのHR 0.94、同0.91~0.98、調整済みP=0.003〕。従来の危険因子やBMIにかかわらず、脂肪筋分率(IMAT/骨格筋+IMAT)が1%増加するごとに、CMDのオッズ比(OR)は2%上昇(OR 1.02、95%CI 1.01~1.04、調整済みP=0.04)、MACE発生リスクは7%上昇した(HR 1.07、95%CI 1.04~1.09、調整済みP<0.001)。
CFRはBMIではなくIMATと有意な相互作用を示し、CMD+IMAT高値例の調整済み年間MACE発生率は5.1%と最も高かった(vs. CMD+IMAT低値例2.4%、調整済みP=0.02、CMDなし+IMAT低値例1.0%、CMDなし+IMAT高値例3.0%)。
以上の結果を踏まえ、Souza氏らは「IMAT増加とCMDは、BMIや従来の危険因子とは独立してCVDに影響を及ぼす」と指摘している。
(編集部・田上玲子)