基底細胞がん(BCC)や皮膚扁平上皮がん(cSCC)などの角化細胞由来皮膚がん(KC)は、高齢化の進展および紫外線曝露量の増加に伴い、過去50年間で急速に増加している。予後は良好で転移リスクは少ないものの、放置すれば局所破壊を引き起こす可能性があり、QOLへの影響が懸念される。標準治療は外科的切除だが、患者の大半を占める高齢者における手術関連合併症に関する研究は少ない。スイス・University Hospital ZurichのLuca D. Fontana氏らは、80歳以上のKC患者における手術関連合併症の発生率を検討する後ろ向き研究を実施。外科手術の有効性と安全性が示されたとの結果をJ Dermatolog Treat (2025; 36: 2461650)に報告した。
全例に同一条件の局所麻酔下で手術を実施
対象は、2022年1月1日~12月31日にUniversity Hospital ZurichでKC切除術を受けた80歳以上の患者。全例に対し、同じ皮膚科チームがリドカイン0.5%を重炭酸ナトリウムで3:1に緩衝化した局所麻酔下で施行した。周術期のせん妄や院内感染リスクを抑制するため、基本的に外来手術とし、入院が必要な場合は3日以内を目安とした。
直接作用型経口凝固薬(DOAC)による抗凝固療法を行っている場合は、手術前日および当日の48時間中断した。周術期感染リスクが高い症例に対しては、経口抗菌薬の予防投与を実施した。
患者データは電子カルテを参照し、人口統計学的背景、併存疾患、使用薬、術式(Mohs顕微鏡手術、slow-Mohs)、腫瘍の特徴、手術による欠損部の大きさ、修復方法などの情報を取得。術後合併症は感染、創傷剝離、血腫、出血、壊死と定義し、1週間~6カ月追跡して評価した。
345例565個の腫瘍が対象
解析対象は345例・腫瘍565個(年齢中央値85歳、女性68.1%)。主な背景は、5種類以上の薬剤使用が49.6%、抗凝固薬または抗血小板薬による治療中が62%、Charlson Comorbidity Indexの中央値は6点(範囲5~8点)だった。複数(2~8個)の腫瘍を摘出したのは35.1%、入院手術を要したのは13.3%、入院期間の中央値は4日(範囲3~5日)だった。腫瘍径が2cm超は24.2%で、BCCの半数以上が高リスク亜型だった。腫瘍サイズの中央値は2.14cm2(範囲1.17~4.70cm2)で、最小0.11cm2、最大93.63cm2と大きさにばらつきが見られた。
術後12カ月以内の死亡率は9.3%で、いずれもKCおよびKC切除術との関連は認められなかった。
合併症の危険因子はDOACの使用、下肢の腫瘍など
術式はslow-Mohs法が66.0%、Mohs顕微鏡手術が34.0%。修復方法は病変の56.4%に単純縫縮を実施し、皮弁術が26.9%、二次的意図による治癒が9.7%、移植が6.9%だった。
25例(4.6%)・26件の合併症が発生した。15件は創部の剝離に関するもので、特別な処置の必要はなかった。
サブグループ解析では、合併症の独立した危険因子として、DOACの使用〔オッズ比(OR)3.57、95%CI 1.61~7.90〕、下肢の腫瘍(同5.47、2.15~13.92)、腫瘍サイズ2cm2超(同3.94、1.34~11.59)、皮弁術(同2.44、1.10~5.41)が抽出された。
以上を踏まえ、Fontana氏らは「80歳以上の高齢KC患者に対する外科的切除は比較的安全かつ効果的であり、術後合併症の発生率も低かったことがわれわれの研究により示された」と結論。研究の限界として、後ろ向き研究であることとサンプルサイズが十分でないことを挙げ、「今後はより大規模な前向きコホートにおいて、長期間にわたり検証する必要がある」と付言している。
(編集部・栗原裕美)