日本糖尿病学会は本日(4月15日)、経口AKT阻害薬カピバセルチブ(商品名:トルカプ)の国内市販直後調査において、糖尿病ケトアシドーシス(DKA)を発症し死亡に至った事例が報告されたとして、「AKT阻害薬カピバセルチブ使用時の高血糖・糖尿病ケトアシドーシス発現についての注意喚起」(以下、注意喚起)を公式サイトに掲出した。大量の経静脈的インスリン投与によっても血糖管理が困難なDKA事例も報告されているという。(関連記事「糖尿病ケトアシドーシスで知能指数が低下」)。
薬剤特性により高血糖が発現
カピバセルチブは、細胞の増殖や生存に関与するAKT(PI3K-AKT-PTEN)経路の中心にあるAKTを強力かつ選択的に阻害するファーストインクラスの薬剤。昨年(2024年)3月26日に、内分泌療法後に増悪したPIK3CA、AKT1、PTEN遺伝子変異を1つ以上有するホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がんを適応として承認された(関連記事「ピカ新の乳がん治療薬、次の一手に好感触」)。
一方、AKTはインスリンシグナル伝達のマスターレギュレーターでもあるため、同薬によるAKT1、2、3の阻害を介してインスリン抵抗性が誘導され、副作用として高血糖が発現する場合がある(図)。一部の症例ではDKAの発症および重症化が報告されている。
図. AKT阻害による高血糖の発現機序
(日本糖尿病学会. AKT 阻害薬カピバセルチブ使用時の高血糖・糖尿病ケトアシドーシス発現についての注意喚起)
カピバセルチブ承認の基となった日本人を含む第Ⅲ相試験CAPItello-291では、有害事象として高血糖が16.9%に認められており、国内市販直後調査(2024年5月22日~11月21日)でも高血糖が31例31件、高血糖の急性合併症が5例6件報告。うちDKAの70歳代女性1例が死亡している(推定使用患者数約350例)。
投与初日からの綿密な血糖値モニタリング、糖尿病専門医との連携を
カピバセルチブの適正使用ガイドでは、注意事項としてDKAや高血糖性高浸透圧症候群などの急性合併症リスクを挙げ、投与開始後1、2、4、6、8週時、その後は1カ月間隔での空腹時血糖値測定、3カ月間隔でのHbA1c測定を推奨している。
しかし、注意喚起では特に注意すべき点として、①投与開始日から高血糖が発現する可能性がある(高血糖発現の中央値15日、範囲:1~367日)、②一部の症例でDKAを発症する、③国内市販後では非糖尿病者であったにもかかわらず同薬投与開始後にDKAを発症し、大量のインスリン(100単位/時間)投与によっても血糖管理が不十分で死亡に至った症例が報告されている-ことを指摘。CAPItello-291試験では、1型糖尿病/インスリン投与を要する2型糖尿病患者およびHbA1c 8.0%以上の患者は除外されていた点に言及した上で、インスリン分泌が高度に低下した例にカピバセルチブを投与する際は、投与初日からのより綿密な血糖値などのモニタリング、食欲不振など消化器症状を含めた問診および診察、原疾患の治療担当医と糖尿病専門医(不在の場合は担当内科医)の適切な連携が重要であるとして、急激な血糖値上昇のリスクや大量のインスリン投与を要する可能性を想定し、診療に当たってほしいと呼びかけている。
なお、カピバセルチブは転移性去勢抵抗性前立腺がんなど、他の悪性腫瘍を対象とした臨床試験も進行しており、適応症拡大、使用例増加の可能性がある(関連記事「カピバセルチブの併用療法、PTEN欠損転移性ホルモン感受性前立腺がんを有意に改善」)。そのため、日本糖尿病学会は関連諸団体と連携し、同薬投与に関連した高血糖・DKA症例の情報収集、基礎的・臨床的研究などを推進していく予定としている。
(編集部・関根雄人)