臨床経験が浅い研修医が乳児に気管挿管を施行する直前に、指導医がトレーニングを行うことでケアの質が有意に改善することが、米・Harvard Medical SchoolのStephen G. Flynn氏らによるランダム化比較試験(RCT)で分かった。アスリートやミュージシャンは、パフォーマンスの直前にコーチが状況を把握・是正しながらジャストインタイムでリハーサルを行うことで最適なパフォーマンスを発揮するが、医療界でなされることは極めて少ない。これを行えば、指導医はさらに自信を持って「私、失敗させないので」と言えるかもしれない。詳細をBMJ(2024年12月16日オンライン版)に報告した。

気管挿管のやり直しで高まる合併症リスク

 例えばプロサッカーチームのコーチは、試合直前にフィールドに出て、ゴールキーパーの当日のパフォーマンスを最大限に引き出すために弱点強化を中心とするシュートドリルを行う。医療行為は高いリスクを伴うものの、先のプロサッカー選手のようなジャストインタイムのトレーニングを行うことがない(BMJ Qual Saf 2017; 26: 866-868BMJ Qual Saf 2017; 26: 881-891)。ジャストインタイムのトレーニングに比べて医療行為を行う数週間前に行うトレーニングは最適ではない可能性がある(Simul Healthc 2017; 12: 213-219BMJ Simul Technol Enhanc Learn 2015; 1: 94-102)。

 高リスクの処置例として、乳児や新生児への気管挿管が挙げられる。米国では年間100万人の乳児が手術を受けており、主に研修医が気管挿管を行っている。多くの研修医は、事前の訓練なしに上級麻酔科医による術中の指導で挿管を行うが、複数回行わざるをえないケースもあり低酸素症、徐脈、心停止などの重篤な合併症を来しかねない

 Flynn氏らは、経験の浅い臨床医に対し施行直前に指導することでケアの質が向上するかどうかを評価する目的でRCTを実施した。

 対象は、米・Boston Children's Hospital(第四次小児病院)で小児麻酔ローテーションを行っている麻酔科研修生(レジデント、フェロー、麻酔科登録看護師学生)172例で、介入群(70例:レジデント45例、フェロー15例、麻酔科登録看護学生10例)と対照群(83例:同53例、16例、14例)にランダムに割り付けた。主要評価項目は、臨床ケアを行う1時間以内に気道専門の指導医がジャストインタイムのトレーニングを実施することによる12カ月以下の乳児に対する術中気管挿管の初回試行成功率(喉頭鏡ブレードの口腔内挿入からブレード抜去まで、試行時間はブレード挿入から持続的な呼気二酸化炭素の検出まで)とした。副次評価項目は合併症発生率、挿管中の研修生の認知負荷、どれだけ速くスキルを習得したかの評価(能力加速分析)などとした。

成功率は対照群の81.4%に対し介入群が93.0%

 気管挿管の初回試行成功率は、対照群に比べて介入群で有意に高かった〔81.6%(283回中231回)vs. 91.4%(232回中212回)、オッズ比(OR)2.42、95%CI 1.45~4.04、P=0.001〕。

 治療必要数は挿管回数が10.2回(95%CI 6.4~25.2回)で、レジデントの初回試行成功率は、対照群の81.4%(172回中140回)に対し介入群では93.0%(142回中132回)と有意に高率だった(OR 3.18、95%CI 1.62~6.24、P=0.001)。フェローはそれぞれ85.9% (78回中67回)、90.5%(74回中67回)と介入群で成功率が有意に高く(同1.57、0.56~4.41、P=0.39)、麻酔科登録看護学生についても同様に介入群で有意に高率だった〔それぞれ72.7%(33回中24回)、81.3%(16回中13回)、OR 1.82、95%CI 0.53~6.24、P=0.34〕。

気管挿管2~3回目で能力加速が有意に向上

 合併症発生率は対照群に比べて介入群で有意に低かった(4.71% vs. 2.75%、OR 0.57、95%CI 0.23~1.41、P=0.22)NASA認知タスク負荷指数で測定した精神的作業負荷スコアは、対照群に比べて介入群で精神的要求(係数-9.5、95%CI -16~-3、P=0.004)、時間的要求(同-9.1、-16.1~-2.1、P=0.01)、努力(同-10.1、-16~-4.4、P=0.001)、フラストレーション(同-7.1、-12.6~-1.7、P=0.01)が有意に低かった。一方、身体的負担(同−3.2、−8.2~1.8、P=0.21)およびパフォーマンス(同−2.9、−6.6~0.7、P=0.11)に両群で有意差はなかった。

 さらに、ジャストインタイムトレーニングによる能力加速分析については、5回のうち2~3回目の気管挿管において対照群に比べて介入群で有意に習得率が高かった(2回目:対照群73.9% vs. 90.9%、OR3.53、95%CI 1.22~10.2、P=0.02、3回目:同77.6% vs. 95.8%、6.64、1.42~31.1、P=0.02)。

 以上の結果を踏まえ、Flynn氏らは「専門の指導医によるジャストインタイムのトレーニングは、経験が浅い臨研修床医の処置ケアの質を向上させる可能性がある」と結論。また、患者の安全性が向上し、より多くの処置による結果の改善に役立つと述べている。ただし今回は単一施設での検討であるため、今後は多施設での検討が望まれる。

(編集部・田上玲子)