心臓手術後心房細動(AFACS)の予防にはカリウム(K)投与が有効とされるが、目標血清K値を正常高値とする妥当性に関してはエビデンスが少ない。ドイツ・Charité - Universitätsmedizin BerlinのBenjamin O'Brien氏らは、冠動脈バイパス術(CABG)施行例を対象に多施設前向き非盲検ランダム化非劣性試験TIGHT Kを行い、K正常高値またはK正常低値を基準とする介入の有効性を検討。その結果、「両群の転帰に差は見られず、K正常低値をトリガーとした治療戦略の非劣性が示された」とJAMA2024年8月31日オンライン版)に報告した(関連記事:「冠動脈バイパス術、BMIで成績に差」)。

1,690例の術後転帰を解析

 TIGHT Kの対象は、2020年10月~23年11月に23施設(英国21施設、ドイツ2施設)で登録した18歳以上の洞調律が認められた単独CABG施行例1,690例。血清K値3.6mEq/LをトリガーにKを投与する正常低値群(830例)と、4.5mEq/Lをトリガーに投与する厳格管理群(837例)に1:1でランダムに割り付け、術後120時間または退院まで追跡した。なお、心房細動、心房粗動、心房頻拍の既往例、術前に高度の房室ブロックが認められた例、不整脈薬物治療歴がある例、術前の血清K値が5.5mEq/L超の例などは除外した。

 主要評価項目は初発AFACS(心房細動、心房粗動、30秒以上または12誘導心電図全体で確認された頻脈性不整脈と定義)における正常低値管理の非劣性(非劣性マージン10%ポイント)とし、副次評価項目は院内死亡率、救命治療または入院の期間、K投与の費用などとし、年齢、性、実施施設を調整した解析を行い検討した。

β遮断薬、ループ利尿薬による影響なし

 全体の主な背景は、平均年齢が64.7±9.32歳、女性が256例(15.4%)、白人が1,440例(86.9%)、アジア人または英国系アジア人が163例(9.8%)、平均血清K値が5.0±0.65mEq/L、平均BMIが29.1±4.91、慢性腎臓病が89例(5.5%)、糖尿病が586例(35.7%)、脳血管イベント歴ありが102例(6.3%)だった。薬物療法の内訳は、β遮断薬が1,290例(77.5%)、ループ利尿薬が87例(5.2%)などだった。

 初発AFACSは厳格管理群で219例(26.2%)、正常低値群で231例(27.8%)が発症した。解析の結果、未調整リスク差は1.7%ポイント(95%CI -2.6~5.9%ポイント)、調整後リスク差は2.2%ポイント(同-1.9~6.4%ポイント)と、厳格管理群に対する正常低値群の非劣性が示された。β遮断薬、ループ利尿薬の有無で層別化したサブグループ解析を行ったところ、いずれもAFACS発症との関連は認められなかった(全てP>0.05)。

投与0回でも非劣性示す

 副次評価項目については、院内死亡率、救命治療または入院の期間に両群で差はなかった。

 K投与の平均費用は、厳格管理群の151.19±103.00米ドル(95%CI 144.20~158.18米ドル)に比べ、正常低値群では39.30±65.37米ドル(同34.84~43.75米ドル)と著明に低かった(調整後平均差112.12米ドル、95%CI 103.84~120.40米ドル、P<0.001)。追跡期間における1例当たりのK投与回数の中央値は厳格管理群が7回(四分位範囲4~12回)、正常低値群が0回(同0~1回)だった。

 以上の結果を踏まえ、O'Brien氏らは「単独CABG後の血清K値管理目標において、3.6mEq/Lをトリガーとした正常低値は、4.5mEq/Lをトリガーとした正常高値に対する非劣性を示した」と結論している。

(編集部・小田周平)