米・Brigham and Women's Hospital/Harvard Medical SchoolのWilliam B. Feldman氏らは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者4万例超の医療保険請求データを用い、定量吸入器を用いて1日2回吸入するブデソニド/グリコピロニウム/ホルモテロール配合薬(BGF、商品名ビレーズトリ)とドライパウダー吸入器を用いて1日1回吸入するフルチカゾン/ウメクリジニウム/ビランテロール配合薬(FUV、商品名テリルジー)の安全性および有効性を比較。その結果、肺炎による入院のリスクは同等だったものの、COPD増悪リスクはBGF群でやや高かったとBMJ(2024; 387: e080409)に発表した。
問題視される定量吸入器の温室効果ガス排出
COPDの3剤配合吸入薬をめぐっては、BGFの定量吸入器から排出される温室効果ガスの環境への影響が問題視されている。FUVのドライパウダー吸入器は環境への影響が小さいが、単一吸入器によるBGFとFUVを直接比較したランダム化比較試験は実施されていない。
そこでFeldman氏らは、新規使用者デザインのコホート研究でBGFとFUVを比較した。米国の医療保険請求データベースOptum Clinformatics Data Martから、2021年1月1日~23年9月30日に単一吸入器によるBGFまたはFUVの吸入を新規に開始した40歳以上のCOPD患者を特定。傾向スコアマッチングにより1:1で選出したBGF群とFUV群(各群2万388例、平均年齢71歳、女性56%)を主解析に組み入れた。
中等度~重度増悪リスク9%上昇、重度増悪では29%上昇
Cox比例ハザード回帰モデルによる解析の結果、有効性の主要評価項目とした中等度~重度COPD増悪の発生リスクは、FUV群と比べてBGF群で9%高かった〔ハザード比(HR)1.09、95%CI 1.04~1.14、追跡365日時点の絶対リスク差(ARD)2.6%、95%CI 0.8~4.4%、有害必要数(NNH)38例〕。
特に、BGFによるリスク上昇は重度COPD増悪で29%と顕著だった(HR 1.29、95%CI 1.12~1.48、ARD 1.0%、95%CI 0.1~1.9%、NNH 97例)。中等度COPD増悪のリスクはBGF群で7%高かった(同1.07、1.02~1.12、1.9%、0.1~3.6%、54例)。
肺炎での入院と全死亡のリスクは差なし
一方、安全性の主要評価項目とした肺炎による入院のリスクは両群で同等だった(HR 1.00、95%CI 0.91~1.10、ARD 0.4%、95%CI -0.6~1.3%)。全死亡リスクについても両群で差はなかった(同1.04、0.93~1.16、0.4%、-0.5~1.3%)。
以上の結果から、Feldman氏らは「BGFはFUVと比べて中等度~重度のCOPD増悪リスクがやや高かった」と結論。「BGFの定量吸入器による気候への影響に鑑み、COPDの治療ガイドラインやフォーミュラリーの策定に際してドライパウダー吸入器を用いるFUVの処方を推進する段階に来ているのかもしれない」との見解を示している。
なお、日本、デンマーク、スウェーデンなどでは、既にドライパウダー吸入器の使用割合が50%を超えているという(Am J Respir Crit Care Med 2023; 207: A6315)。
(医学翻訳者/執筆者・太田敦子)