迅速な診断が可能に―超音波診療
足首のけがなどに有効
足首の捻挫などの診療に超音波が広く利用されるようになってきた。レントゲン撮影では見えなかった靱帯(じんたい)や筋肉の損傷を確認することができ、磁気共鳴画像装置(MRI)に比べて診療費も安い。済生会奈良病院(奈良市)整形外科の松井智裕副部長に超音波診療について聞いた。
超音波で損傷の程度が正確に診断できる(済生会奈良病院整形外科提供)
▽体に無害で無痛
超音波検査は人間には聞こえない高周波の音波を使う。体の外から当てた超音波は血管や臓器の境界面で反射し、その跳ね返った音波が画面上に表示される。人の体に害がなく痛みもない。
「超音波は、皮膚から2センチ以内の浅い位置に靱帯や腱(けん)が集中している足首の診療にとても有効です」と松井副部長は説明する。
足首の捻挫は主に足関節を内側にねじることで生じるため、足関節外側の靱帯が損傷する。捻挫の程度には靱帯が伸びる、靱帯の一部が切れる、靱帯が完全に切れる―の3段階があるが、痛みや腫れはどの段階でも生じる。ところが、レントゲン撮影では靱帯が見えないので、レントゲン撮影、腫れや痛みの有無、触診による従来の診察では、正確な損傷の程度が分かりにくかったという。
▽患者の負担を軽減
「超音波検査では靱帯の損傷を確認できるほか、骨棘(こっきょく)の形成や軟骨の損傷、靭帯の緩みによる関節周囲のずれなどが観察できます。痛みや腫れの原因が、実は捻挫以外にあることが分かった場合には、時を移さず、適切な治療を行うことが可能です」と松井副部長。
患者も画像を見ることができるので、靱帯が断裂してギプスが必要な場合などに、重症度を理解してもらいやすいという。また、アキレス腱炎や足底筋膜炎では、画像を見ながら炎症による痛みを抑える注射を打つなどの「超音波ガイド下」の治療が行える。
松井副部長らはこれまで、手術が必要な場合は全身麻酔や下半身麻酔の下で行ってきたが、最近では超音波ガイド下で、痛みが伝わる経路を遮断する神経ブロック注射をしてから手術をすることが多くなった。体への負担が少なく、手術室から歩いて自室に帰ることができるほか、術後の食事も自分で取れるという。
「超音波を用いた診療を始めたことにより、初診時に診断が可能になり、治療開始までの時間が短縮されました。MRIに比べ診療費も抑えられ、患者さんにとって経済的なメリットも大きいと思われます」と松井副部長は話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/05/25 07:00)