教えて!けいゆう先生
「医師によって言うことが違う」
なぜなのか、説明します 外科医・山本 健人
患者さんからよく聞く不安の一つに、「医師によって言うことが違う」というものがあります。
医師に限らず、「看護師によって言うことが違う」とか、「担当の医師と看護師の言うことが違う」といったこともあります。
このようなことがあると、患者さんは心配になるでしょう。「どちらを信用すればいいのか分からない」と思うだけでなく、「患者に関する情報をきちんと共有できていないのではないか」と、疑念を抱いてしまうかもしれません。
患者の病状の変化が速いケースなどで、朝に診た医師と、昼に診た医師で、言うことが異なるときもあります【時事通信社】
しかし、実は医療の現場では「それぞれが適切に情報提供しているにもかかわらず、『言うことが違う』ケース」がよく起こり得ます 。
どのようなケースでしょうか?
◆病状の変化が速い
まず、病状の変化が速いために、その時々で提供されるべき情報が急速に変わるケースです。
例えば、入院している患者さんを朝に診た医療者と昼に診た医療者とでは、得られる情報が全く異なることがあります。
「朝の体温は36度台だったが、昼になって37度台になっていた」
「朝は血圧が正常だったが、昼になってやや低下傾向である」
「朝の顔色は良好だったが、昼になってやや悪くなっているようだ」
このような変化は珍しくありません。外来で通院中の患者さんであれば、これが「きのうときょう」ということもあり得るでしょう。すると、その都度、患者さんに伝えるべきことは違ってきます。
体の状態は、刻一刻と変化します。本人が気づかないうちに、病状が大きく変化することも、少なくありません。その場合は、それぞれのタイミングで、適切な情報提供を行っていても、その内容は全く異なることがあり得るのです。
もちろん、医療者の方が「朝と昼の病状が変化していること」まで、きちんと説明すれば、誤解は避けられます。
◆持っている情報量が異なる
さらには、こんなケースもあります。
入院中の患者さんが、午前7時に血液検査を受けたとします。検査の内容にもよりますが、おおむね結果が返ってくるまで、1時間ほどかかります。
すると、午前7時台に診察した医療者と8時台に診察した医療者は、それぞれ異なる情報を手にして、患者さんに接することになります。
前者は患者さんへの問診と身体診察からのみ情報を得る一方、後者は「血液検査結果」という貴重なデータを手にして患者さんを診察できるからです。
当然ながら、前者と後者が患者さんに異なるアドバイスをすることは、あり得るでしょう。
一般的には、時間的に後から診た人の方が、多くの情報をもとに病状を考察できる傾向があります。私たちの間でよく知られた「後医は名医」という言葉は、こうした現象を捉えたものです。
医療者と患者さんは、ふとしたボタンのかけ違いからコミュニケーションエラーを起こし、信頼関係を損ねてしまうことがあります。
以上のような事情を両者が知っておくと、少しの歩み寄りが期待できるのではないでしょうか。
(2021/04/21 05:00)
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