Dr.純子のメディカルサロン

メンタル状況を公表することの意味
~大坂選手のdepressionから考える~

全仏テニス女子1回戦で勝利した直後の大坂なおみ選手(5月30日、パリ)【EPA=時事】

全仏テニス女子1回戦で勝利した直後の大坂なおみ選手(5月30日、パリ)【EPA=時事】

 プロテニスの大坂なおみ選手(日清食品)がテニスの4大大会全仏オープンの1回戦に勝利した後、記者会見を拒否し、その後試合を棄権しました。自ら”depression”に苦しんでいたことを明かし、しばらく休養するとの報道に大きな衝撃が走りました。成績も良く、はたから見ると好調と受け取られましたが、先日は試合中にラケットを投げて破壊したことも報道されていました。どうしたのかな、と思う人もいたのではないでしょうか。

 自分のツイッターで2018年以来depressionであるとツイートしていました。depressionはうつ病ということになります。これがいわゆる”うつ病”であるのか、適応障害に伴う”うつ状態“かは、明確ではありません。また、大坂選手について、面識もなく報道による情報のみで診断を推測することは、控えたいと思います。ただ、うつ病やこうしたメンタルな状態をカミングアウトすることについて、知っていただきたいことを幾つか指摘したいと思います。

 ◇うつ病とうつ状態は違う

 まず、うつ病とうつ状態は異なります。うつ病には内因性と外因性の2種類があります。ストレスが多く起きる場合もありますが、特に要因がなくても起こるのが内因性うつ病です。うつ病というと、すぐに「何かストレスがあったの?」という人がいますが、そうではなく、そうしたストレス要因がなくても起きるものです。こうした内因性うつ病には、双極性障害といって、うつ状態とそう状態を繰り返すような病態もあります。

 もう一つは、ストレス要因で起こる外因性のうつ病です。自分の気持ちを抑圧した状態にして我慢し続けたような場合、完璧主義で常に完璧を目指し、失敗する自分を許せず自分を追い込む場合などに起こりやすいといえます。我満強い人や完璧主義の人はリスクが高いといえます。

 ◇症状と行動変化

 うつ病の症状には、次のようなものがあります。睡眠障害-眠りが浅い、朝早く目が覚める、寝付けない、食欲不振や過食、気分がうつ、怒りっぽくなる、感情がコントロールできない、不安、体調不良―などです。このほか、集中できない、動作がのろくなる、身だしなみを整えることができない、ミスが多くなる―などの行動の変化を引き起こします。体重が減少したり、逆に増えたりすることもあります。こうした状態が2週間以上続いた場合は、うつ病のリスクが高く、受診して治療が必要です。

 治療は休養と投薬が主体ですが、ストレス性の場合と内因性の場合では薬の内容も異なることがあります。

 ◇休養が大事

 さて、こうしたうつ病とうつ状態は異なります。うつ状態は、うつ病でなくてもほかの疾患でも起こります。適応障害に伴ううつ状態、がんや膠原病や治療薬に伴ううつ状態ーなどもあります。

 症状としては、うつ病と同様に気分の落ち込みなどが起こりますが、適応障害に伴ううつ状態は、環境改善なども視野に入れての治療が必要です。

 うつ病もうつ状態も休養が大事なのは同じです。そして、ストレス要因がある場合はそれを軽くするほか、仕事がストレス要因の場合は、本人が適応できるような状況を再構築していくことが必要です。

全豪オープンを制覇、記念撮影に応じた。リラックスした表情だ。(2月21日、メルボルン)【AFP=時事】

全豪オープンを制覇、記念撮影に応じた。リラックスした表情だ。(2月21日、メルボルン)【AFP=時事】

 ◇カミングアウトは勇気が必要

 自分が体調がよくないことや、メンタルな疾患であることを公にするのは、とても勇気が要ることだと思います。うつ病にしても、うつ状態にしてもそれは同じでしょう。なぜなら、職場などで一般的にメンタルなことで休職すると言うと、「弱い」「我慢できない・踏ん張れない人」という評価を下されてしまい、将来の昇進などに影響すると考える人が非常に多いからです。上司に悪く思われたくないということで言い出せなかったり、また上司の方もメンタルなことで休む人をダメな人、と思ったりする場合が多いのです。そのため、ぎりぎりまでカミングアウトできずに状況を悪くさせていることが多いのが残念です。レッテルを貼られるとそれが持続してしまう風潮が、日本では特に強いと思います。

 大坂選手は昨年のジョージ・フロイドの事件の際にも、自分の意思をはっきり示した行動をとり、若い世代のインフルエンサーとして大きな影響力を持つ選手です。

 今回自分がdepressionであることを公表し休養を宣言したこと、また取材に関しての発言は反発や批判もあり、言い出すのが遅いという意見も多いようです。しかし、今回の発言は、メンタルな状況を公表することに関して意識を変化させるきっかけになるようにも思えます。

(文 海原純子)

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