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日本の新年の習わしと健康
~理にかなった暮らしの知恵~ 医学博士 福田千晶

 日本の新年の習わしには「健康にも良いこと」があります。地域によって多少の違いはありますが、それも人々の暮らしや健康のために考えられたものなのでしょう。

コロナ禍でも多くの人が初詣に出掛けた=2021年1月1日、東京都台東区の浅草寺

コロナ禍でも多くの人が初詣に出掛けた=2021年1月1日、東京都台東区の浅草寺

 ◇年越しそばと除夜の鐘

 12月31日は大みそかで、その年の最後の一日です。しかし、昔は一日の始まりは深夜の0時ではなく日没と考えられていたため、実は12月31日の日暮れと共に新しい年が始まっていました。そのため、現代でも地域によっては、大みそかにお節料理を食べ始めるようです。

 大みそかの夜に食べる決まりものとしては「年越しそば」があります。「今年一年の厄を断ち切る」ということで、切れやすいそばを食べるようになったのは江戸時代からと言われています。おそらく、お正月の準備や、その年の決算で大忙し、夜になってやっと食事ができるため、栄養価が高く、食べやすいそばが適していたと思われます。温かいそばなら体が温まるし、もりそばなど冷たいそばなら最後にそば湯を飲んで温まったことでしょう。そばに含まれるビタミンB群や血管を丈夫にするルチンは、ゆでると溶けやすいので、ゆで汁のそば湯を飲むことが望まれます。

 除夜の鐘は、お寺で百八つの鐘が突かれます。人間には百八つの煩悩があり、除夜の鐘はそれを消し去ると言われます。新しい年を迎える深夜に耳を澄ませ、気持ちを落ちつかせる効果があるとも思います。

 ◇初詣、おとそ、おせち料理

 お正月は初詣に行き、おとそ、おせち料理、お雑煮などで新年を祝います。初詣は、その地域や家庭によって、年の恵方にある神仏に参詣する場合と、氏神様に参詣する場合、各地の有名神社に参詣する場合があります。必ず元旦にお参りする家と、三が日の期間中にお参りする家があります。

 一年の健康や幸せを祈願するための初詣ですが、屋外を歩くことは運動不足解消になります。また、お酒を飲み続けることになりがちな時なので、「初詣は飲み過ぎ防止の目的もある」と言われる地域もあるようです。

 お正月に、おとそを飲むことは平安時代から行われていたようです。おとそは、山椒(さんしょう)、大黄(だいおう)、白朮(びゃくじゅつ)、桔梗(ききょう)、肉桂(にっけい)、防風(ぼうふう)、乾姜(かんきょう)などの漢方薬を調合して日本酒やみりんに浸したもので、一年の邪気を払い、寿命を伸ばすための祝儀として飲みます。含まれる漢方の効能は、血行促進や体を温めるなど季節に合っていますが、少量なので効果が期待できるほどではないかも知れません。

おせち料理は冷めてもおいしく健康的

おせち料理は冷めてもおいしく健康的

 おせち料理は本来、節句に供される料理でした。三が日は食べられるように日持ちがして、冷めてもおいしいものが主体です。一般的には、お重に詰めて用意されて、取り皿に取り分けて食べるので料理を運ぶ手間が省けることもメリットです。

 黒豆はビタミンB群、良質のたんぱく質、食物繊維が豊富です。五万米(ごまめ)は田作りとも呼ばれ、カタクチイワシの幼魚を煎って、甘辛く煮詰めたものですからカルシウムも豊富です。栗きんとん、たたきごぼう、なます、お煮しめ、きんぴらごぼう、昆布巻き、八つ頭の煮物などは食物繊維がたっぷりな食材を使います。かまぼこは、魚のすり身と卵白、だて巻きも魚のすり身と卵で作られていますから、動物性たんぱく質とカルシウムが摂取できます。

 おせち料理は、その他にも地方や家庭によっては、さらに海産物やその地方の特産品が加わったりしますが、使われている食材はどれも健康的です。ただし、砂糖と塩分が多いのが気になります。食べ過ぎないことも大切ですし、家で作る場合は、冷蔵庫での保管もできる現代ですから薄味を心掛けましょう。

 おせち料理と共にお正月の定番は、お雑煮です。これも全国各地でお餅の形状から味付け、入れる具などはさまざまですが、汁物にお餅を入れるのが基本です。熱い汁とお餅などは、胃の中でしばらく温かさが保持されるので寒い冬にはうれしい一品です。しかも、調理する立場で言うと、年始の来客数が予定より増えたときに、ご飯やお赤飯は炊き足すのに時間がかかりますが、お雑煮なら、お餅の用意があれば多少の人数変更にも対応できます。

 「…お正月にはたこ上げて、こまを回して遊びましょ」という歌があるように、たこ上げやこま回し、羽子板などはお正月の遊びでした。最近では、このような遊びができる子どもも少なくなってしまいましたが、屋外で元気にたこ上げや羽子板で遊び、上手にできなくても笑い、そんなお正月を私も楽しみでした。

新しい年に祈りを込める=2021年1月4日、東京都千代田区の神田明神(EPA時事)

新しい年に祈りを込める=2021年1月4日、東京都千代田区の神田明神(EPA時事)

 ◇書き初め

 書き初めは、1月2日にする場合が多く、一年の抱負を書き、字が上手になることを願います。すずりで墨をするところから気持ちが引き締まります。抱負を決めるために言葉や漢字を考えたり調べたりすることで、知的な好奇心を刺激される行事です。抱負を適度な緊張感のある中で書くことで心に深く刻み、その抱負に向かって一年を真面目に努力しようと誓うことでしょう。

 また、パソコンなどなかった時代は文字を書く機会が今よりずっと多かったので、「字が上手」という特技は、人生でかなり有利なことが多かったはずです。そのため、まず1月2日から書を始めて、日々、稽古をすることが望まれたとも思われます。

 ◇七草がゆと小豆がゆ

 一年の邪気を払い、健康長寿を願う意味で1月7日には「七草がゆ」、小正月の1月15日には「小豆がゆ」を食べる習慣があります。

 七草はセリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロです。それをかゆに入れますから、温かく、消化が良く、食べやすくなっています。七草は食物繊維が豊富で、それぞれに胃腸の調子を良くする、利尿作用があるなどの効能があります。お正月に飲み過ぎ、食べ過ぎや塩分を取り過ぎた体を整える意味があったのでしょう。

 現代では、スーパーマーケットで「七草がゆセット」などが販売されて、1月7日に手軽に食べることもできますから、わが家でもこのセットを購入して七草がゆを炊きます。冬休みの子どもと一緒に脂っこいボリューム食を食べていたパパやママにも七草がゆはお勧めです。

 1月15日に食べる小豆がゆに入れる小豆は、食物繊維が豊富で整腸作用があり、さらにビタミンB群とポリフェノールが豊富で、疲れた体を癒やす効果があります。むくみを解消してくれるカリウムや、目の疲れに効果的なアントシアニンも含まれます。栄養価の高い小豆を入れた温かいかゆを、寒さ厳しいこの時期に食べることは健康的な習慣と言えます。

 日本の新年には、この他にもいろいろ風習があり、健康面から考えても理にかなったことが行われています。習わしは、その意味や効果を考えながら行うと、昔の人の知恵につくづく感動いたします。ぜひ、その良き習慣を2022年も行うことで、健康で幸せに過ごしたいものです。(了)


福田千晶氏

福田千晶氏

 ▼福田千晶(ふくだ・ちあき)

 慶応義塾大学医学部卒業、医師として東京慈恵会医科大学病院リハビリテーション科勤務を経て、クリニックでの診療と産業医業務を行う。勤務医時代に、エッセーや論文のコンテストでの受賞などをきっかけに執筆活動も開始し、健康に関するテーマで著書や監修書は多数。

 日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本人間ドック学会人間ドック健診専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本体力医学会健康科学アドバイザー。

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