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花粉症対策は周囲の協力が不可欠
~「なるべく触れない」ために~ 医学博士 福田千晶

 スギ花粉症の季節は「バレンタインデーからゴールデンウイークまで」と言われます。もうその季節になり、しかも今年は例年よりスギ花粉がやや多いと予測されています。

花粉を蓄えたスギの雄花

花粉を蓄えたスギの雄花

 ◇花粉症はなぜ起こる?

 花粉症はアレルギーの一種です。花粉が目や鼻から入ると、体内では「異物、つまり敵」とみなします。そのため、体内では敵である花粉に対抗する「抗体」が作られます。花粉に接触するたびに抗体は作られ、ある程度の量の抗体が体内に蓄積されると、いよいよ本格的に敵である花粉を追い出す作戦になります。

 抗体は肥満細胞と呼ばれる細胞とタッグを組み、結合します。この肥満細胞はヒスタミンなどの化学物質を放出することができます。この化学物質が神経や血管や分泌腺を刺激して、花粉を追い出す手段を取ります。

 目から入る花粉を追い出すため、涙が出ます。口から入りそうな花粉を一気に吐き出すために、くしゃみが出ます。鼻からも花粉を流し出すために鼻水が出てきます。

 これらが花粉症の不快な症状になるのですが、本来は「これ以上、花粉が体に入り込まないように」という自然の防御策であり、「花粉追い出し作戦」なのです。

風に乗って飛散するスギ花粉。今年は例年よりやや多いと予測されている

風に乗って飛散するスギ花粉。今年は例年よりやや多いと予測されている

 ◇まずは花粉を避けること

 このアレルギーのシステムが出来上がってしまうと、次に花粉に接触すると、一連の「花粉追い出し作戦」作動により、症状が出現します。そのため、花粉症対策として、まず大切なのは「なるべく花粉に触れないこと」。

 晴れて風の強い日などは花粉が多くなるので、外出は雨天で花粉が少ない日が最善です。ただ、雨天の翌日は、樹木の葉や建物に付着していた花粉が雨で流れて地面に落ち、後に晴れたらその花粉も舞い上がることになりますから雨天の翌日の花粉は多めになります。最近は、天気予報でも花粉の飛散量を予測してくれるので参考になります。

 外出時には、新型コロナウイルス感染の対策でも着用しているマスクは必需品です。メガネかサングラスで目に直撃する花粉を避けることも大切です。できればツバのある帽子をかぶり、ロングヘアーの人は束ねて帽子に入れて、髪に花粉が付着しないように工夫します。

 衣服は、表面がツルッとしたナイロン素材のコートやウインドブレーカーなど、花粉が滑り落ちてあまり付着しないものが望まれます。そして、コートなどの上着は玄関で脱いで室内に持ち込まないか、もしくは畳んで室内に持ち込みます。上着の表面には花粉がいっぱい付着しているかもしれないからです。

 これらの生活上の注意点は、花粉症の人ならほとんど常識となっているでしょう。

花粉症は本人の対策だけでは不十分

花粉症は本人の対策だけでは不十分

 ◇花粉症ではない人の協力

 スギ花粉症の人がどのくらいいるかは、はっきりとは分かりません。医療機関を受診せず、市販薬で対処している人も多く、正確な人数は不明です。さらに、自分でも「花粉症かどうか分からない」という人もかなりいます。また、地域や年齢によっても偏りがあるので、アンケート調査なども、調査した集団によって結果はかなり異なるようです。

 わが国では、「4人に1人は花粉症」という説が有力かと思います。4人に1人が花粉症なら、4人のうち3人は花粉症ではないことになります。

 いわば「非花粉症」の人々にとっては、花粉症のセルフケアなんて関心ないことでしょう。コートもツルッとした素材なんて選ぶ必要はなく、たっぷりと花粉が付着できるウールのコートや、モコモコしたり、フワフワした空気と一緒に花粉もしっかり含みそうなマフラーを身に着けたりもできるのです。

室内に花粉を持ち込まない

室内に花粉を持ち込まない

 そして、その非花粉症の人々が職場の自分のデスクに到着して、そこでコートやマフラーをバサッと脱衣していくと、周囲に花粉をまき散らすことになります。そして、その花粉が周囲の花粉症の人が呼吸することで鼻に入ると…くしゃみが出たり、急に目がかゆくなったりします。

 家庭でも、花粉症の人がコートを室内に持ち込めば、室内の花粉量は一気に増えます。晴れて風のある日に、非花粉症の家族が無防備に窓を開ければ、瞬く間に室内に花粉が入り込み、くしゃみや目のかゆみ、鼻水などの花粉症の症状でつらくなるのです。

 特に、花粉症の人が車の運転をしている時、同乗者が非花粉症の場合は急に窓を開けたりしないでくださいね。花粉症の運転者が、くしゃみのタイミングで自動車事故を起こすケースもあるそうです。とても危険なことです。

 花粉症対策として、「なるべく花粉に触れない」というのは、本人だけではなく家族や職場の人々の協力が不可欠なのです。

ホワイトハウスに迎え入れられた雌猫の「ウィロー」[28日のジル米大統領夫人のツイッターより](時事)

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 ◇ペットも要注意

 協力が必要なのは人だけではありません。もはや家族とも呼べるかわいいペットちゃんも実は要注意なのです。犬や猫は花粉を付着しやすそうな毛皮に覆われています。そして、地面に人よりも近い所に胴体があります。歩くたびに地面に落ちている花粉が舞い上がり、ペットちゃんの「毛皮」に付着することでしょう。そして帰宅後のペットちゃんが、足だけ洗ってそのままリビングルームに入れば、かなりの量の花粉を持ち込むことになります。ベッドに入れば、布団の中や枕に花粉が付着することになります。

 ペットちゃんも散歩から帰ったら服を脱がせたり、ぬれタオルで体を拭いたり、体を洗ったりするとよいでしょう。

 例年より多めの花粉が飛び交うという予測もある今年は、花粉症でない人も花粉を持ち込まない配慮をすることで、花粉症の皆さんのつらさを軽減するように協力いたしましょう。(了)


福田千晶氏

福田千晶氏

 ▼福田千晶(ふくだ・ちあき)
 慶応義塾大学医学部卒業、医師として東京慈恵会医科大学病院リハビリテーション科勤務を経て、クリニックでの診療と産業医業務を行う。勤務医時代に、エッセーや論文のコンテストでの受賞などをきっかけに執筆活動も開始し、健康に関するテーマで著書や監修書は多数。
 日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本人間ドック学会人間ドック健診専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本体力医学会健康科学アドバイザー。


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