Dr.純子のメディカルサロン

猫はなぜ、心に効くのか
~心療内科医が考えるその理由~

 2022年2月22日は猫の日だとか。既に、猫好きの人の間では盛り上がっています。この数年、猫ブームが続いています。コロナ禍でリモートワークが多くなった頃から、家で猫を飼い始めたという声も聞くようになりました。

 私は猫と同居してからもう30年余り。今は4代目の猫と同居しています。猫はなぜ、心に効くのでしょうか。まず、猫と同居して心が回復した2人のケースを紹介しましょう。

(文 海原純子)

筆者と同居する4代目ふーちゃん

 ◇世話を楽しむ

 高校を卒業後、親との関係が悪く体調を崩し、うつ状態で何事にも意欲が湧かず、家に閉じこもりがちになったAさん。自分が何をしたいのかが分からなくなっていました。そんな時、近くのコンビニに買い物に行った帰り道で、ノラの子猫に出会いました。子猫は彼女に付いてくるので、なでているうちに「この猫を飼おう」と思ったそうです。

 しかし、母親は動物が嫌いで、野良猫など絶対に許すわけはないのです。母親の反応が怖かったのですが、思い切って猫を連れて帰りました。予想通り母親は大反対で「捨ててこい」の一点張り。でも、彼女は母親に「絶対捨てない」と宣言し、母親が譲歩して「飼うのはいいが、自分の部屋から一歩も出さないように」という条件を付けたのです。

 彼女はその条件を受け入れ、猫が快適に過ごせるように自分の部屋を整理しました。猫の餌代などは親が出してくれないので、近くのバイトを探して週に数回バイトを開始。朝早い仕事でしたが「猫のため」と頑張り、餌代をはじめキャットタワー購入の資金もためるうちに自分に自信が出てきたのです。しばらくすると、バイトを毎日できるようになり自分が何をしたいかが考えられるようになりました。

 家に帰ると、猫がゴロゴロ歓迎してくれて楽しさや幸せ感を感じるようになったといいます。世話をすることが面倒ではなく、むしろ楽しむ自分を発見したそうです。猫は彼女の自立の手助けをしてくれたと言えます。

英首相官邸でネズミ捕獲長を務める「ラリー」(英首相官邸のツイッターより)

 ◇朝ごはんで生活のリズム

 激務の仕事が続き職場の人間関係も悪く、うつ状態になり休職していたBさん。近くに住む友人から「実家に行くのでしばらく猫を預かってほしい」と頼まれました。もともと猫は好きだったし、これまでも友人の猫を預かったことがあり引き受けたそうです。朝に弱く起きられなかったBさん。しかし、猫は朝空腹で、Bさんを起こすので放っておけません。何とか起きて食事の用意をするうちに、生活のリズムができて、そのことで自信が出てきたそうです。

 「猫を抱いてなでているととても安定した気分になる」と言うBさんは、その後職場復帰し、自分の猫を飼うことにしました。Bさんは「猫は相手の社会的地位や肩書きなんて関係なく、ただ自分が好きか嫌いかで相手と関わるからいいですよね」と話します。

 ◇見返りを求めない愛情

 飼い主にとって、同居する猫の世話をするのは全然面倒ではないし、苦痛でもなく、むしろ幸せな気持ちにさせるものです。見返りは全く求めていないし、ただ世話していればそれでよい。「にゃあ」と答えてくれればそれで幸せ。つまり、猫は知らず知らずに愛することの幸せ感を教えてくれるものです。

猫カフェのウインドー越しに見つめ合う猫と犬(リトアニアの首都ビリニュスで、2020年4月19日撮影)【AFP=時事】

 ◇対等な関係性

 猫も犬もどちらも人気のコンパニオンアニマルです。大きく異なるのは、犬は人の命令に服従する、しつけられる動物です。猫はそうではない。つまり、人と犬は上司と部下という縦型の関係である一方、人と猫はお互いが独立した関係で、その横の関係性が縦型社会で疲れた人の心をほっとさせてくれるものです。

 ◇忖度のない安心感

 猫は飼い主が呼んでも自分の気が進まない時は無視。主語は自分です。それをわがままな生き物という人もいますが、むしろ「忖度(そんたく)がない」生き物と言うほうがいいかもしれません。現代人、特に日本人は日常生活で忖度にとても疲れています。

 忖度しなければならない時もあるし、逆に「これは忖度されているのでは」と疑心暗鬼になったりします。褒められても喜ばれても、それを素直に信じられない。「もしかして、自分に気に入られようとして本当は嫌だけどニコニコしているのではないか」「本当はよくないのに素敵と言っているのではないか」と裏を考えて悩んでしまいます。

 しかし、猫といるときは、そんなことを考える必要は全くありません。嫌な時はノーと言ってくれるから安心していられます。

台湾・蔡英文総統が自身のツイッターに載せた飼い猫「想想」

 ◇与えることで与えられる

 鎌倉の円覚寺に名物猫の「しいちゃん」がいます。元はお寺の門前で生まれて、ぴいぴい鳴いていたノラの子猫だったそうです。子猫はほとんど死にかけていて、お寺の修行僧たちが大騒ぎしていたところ、一人の若い修行僧が「自分が病院に連れて行きます」と申し出たそうです。

 円覚寺管長の横田老師によると、その若い修行僧はそれほど熱心に修行をするタイプの若者ではなかったのでちょっと驚いたそうですが、任せてみることにしました。修行僧は積極的に猫の世話をするようになり、子猫は一命を取り留めました。それまではあまり熱心に修行しなかった修行僧は、猫の世話をして以来、熱心に修行をするようになり、地元のお寺を継ぐまでになったそうです。そして、しいちゃんは円覚寺の名物猫になりました。世話をして与えたことで、目に見えない何かが若い修行僧に与えられたようです。

 ◇生老病死を学ぶ

 普段、私たちは老いや死について考えることはほとんどないかもしれません。むしろ、そういうことを考えるのを避ける傾向があるとも言えます。しかし、猫と暮らしていると、猫の老化や死を目の当たりにしなければならないことがあります。年をとりたくない、老いるのは美しさを失うと思うものですが、実際に猫が年をとり、それまでの元気さを失い毛並みが悪くなっても、自分の猫に対する愛情は変わらないことに気が付くのです。老いることや外見の美を失うことで、失うものはないということを教えてくれるはずです。








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