特集

「死に至る可能性も」と警鐘
便秘大国日本の実態

便秘は相談しづらい面も
 国内で症状を訴える人が450万人にも達するといわれる便秘症。一時的であれば大きな問題にならないが、慢性便秘症は治療が必要な場合がある。食物繊維の不足や不規則な生活、無理なダイエットといったさまざまな要因で起きるほか、女性の場合は月経周期のホルモン変化が影響して便秘になるケースも多い。「恥ずかしくて(周囲や医師にも)相談できない」という患者が少なくない一方で、「死に至る可能性もある病」とされている。

 近年、新薬が認可されて治療の選択肢が広がり、慢性便秘症の診療ガイドラインが昨年初めて制定された。同ガイドラインの制作に携わった横浜市立大学大学院医学研究科の中島淳教授(肝胆膵消化器)を講師に招いたセミナーが都内で開かれ、中島教授は医師の側も含めた「便秘大国日本」の現状に警鐘を鳴らした。

 ◇80代は1割が便秘

  便秘はそもそも、どんな病気なのか。「本来体外へ排出すべきふん便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されており、具体的には(1)排便回数が少なく便が腸内で留まる(2)便が快適に排出されず残便感が残る‐という2タイプに大別できる。症状が1~2カ月、断続的にでも続いていると「慢性便秘症」と診断される。

中島淳教授提供
 若い女性に多いというイメージ通り、50代までは症状を訴える女性の割合が男性の倍以上に上るが、年齢が高くなるにつれて男性患者が急激に増加。80代になると男女差がなくなり、いずれも10人に一人が便秘に悩んでいる。中島教授は「急速な高齢化の進行で今後、便秘になる人が確実に増加する」と指摘する。

 そんな便秘を軽く見る向きも多いが、「便秘は寿命を縮める」との報告が出ている。

 ◇心臓発作の要因に

 便秘の有無による生存率を米国で15年間にわたって比較した研究によると、生存率に約10%の差が出たものもある。往年のロックスター、エルビス・プレスリーはトイレで心臓発作を起こして42歳で亡くなったとされるが、「便秘だったため、トイレで過度にいきんだのが心臓発作の要因だったと報じられている」

  日本でも「高齢者がトイレでいきんで血圧が上がり、上手に呼吸ができずに酸欠状態に陥って救急搬送、死亡することが後を絶たない」。高血圧や心臓疾患の患者は質の高い治療を受けられるが、便秘のコントロールができていないのが実態だ、という。

中島淳教授提供
 一度便秘になると、「食欲低下⇒吸収・栄養障害⇒筋力低下⇒活動性・運動量減少⇒便秘」という悪循環に陥って慢性化する。これを断ち切る必要があるのだが、「医者も患者も便秘を病気と思っていない」。多くの患者は最初、薬局で便秘薬を買うのが一般的だ。

 ◇広がる選択肢

 では、便秘薬の実態はどうか。

 日本で服用されている便秘薬の98%は、酸化マグネシウムとセンナなど植物由来の刺激性下剤。いずれも薬局で医師の処方箋がなくても購入できる。酸化マグネシウムは塩類の濃度を高めて浸透圧により水分を腸内に送り、便を柔らかくする。日本で古くから使われているが、高齢者や腎機能に問題のある人は慎重に使用する必要がある。

 刺激性下剤は、大腸の蠕動(ぜんどう)運動を促して排便を促す。「効果が強く、紀元前からある薬で切れ味がよいが、ほとんどが下痢になる。よい薬だが、薬剤耐性があり、あくまで困ったときに短期的に使うもの。毎日使うと使う量が増え、最終的に依存症になり、大腸を手術で取る必要が出てくる」

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