女性医師のキャリア

医学部入学者、女性が4割占める
~求められる「人生を自分で決める力」~ 不正入試から5年

 ◇仏は産婦人科医の8割が女性

 ―女性医師が増え続けることには男性医師だけでなく、女性医師にも抵抗があったようですが。

 対馬 医師の定員は決まっているので女性が増えれば男性は減る。家庭を持つ女性医師にとって男性医師のサポートが不可欠だと思われています。

産婦人科病院の医師たちと(仏)

産婦人科病院の医師たちと(仏)

 昨年の秋、フランスの産婦人科病院を訪問したのですが、同国では産婦人科医の8割が女性と聞いて驚きました。理由を聞いたところ、少し前までは男性の方が多かったけれど、仏政府が女性たちに真摯(しんし)に向き合い、耳を傾けて大胆な改革を行ったところ、働き方が大幅に変わり、産婦人科で働きたいという女性が増えたそうです。

 そもそも医療やヘルスケアは女性向きの仕事だと言っていました。婦人科や産科を担当している女性医師や、医学部教育や地域で性教育を行っている女性医師、心のケアを行う女性医師たちとも話したのですが、社会貢献や後進を育てる仕事に週に3日勤務しても管理職になれるとのことでした。

 ◇性と生殖に関する健康と権利を獲得

 ―仏ではどのように改革が進められてきたのでしょうか。

 対馬 日本では認知度が低いのですが、世界では「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」*2の実現に向けた数々の取り組みが行われていて、仏の改革もその一つです。

 仏はカトリックの国なので、かつては非常に封建的で、「女は結婚したら子供を産んで育てないといけない」「妊娠したら中絶してはいけない」というように、自ら選ぶ権利は与えられていませんでした。

性暴力やDV被害者の救済センターMaison de femmeにて(仏)

性暴力やDV被害者の救済センターMaison de femmeにて(仏)

 1967年に避妊の合法化とピルの承認がなされ、教育課程に性教育が加えられました。1970年代には産まない自由を求めて運動が展開され、1975年に人工妊娠中絶が合法化されました。これにより、女性は「自分の身体に関することを自ら決定する権利」を獲得し、その後の男女平等を目指す社会運動につながっていきます。1998年には性教育が義務化、2001年に中絶と避妊に関する法律の改訂を受けて学校性教育が法定化されました。仏の女性たちは若い頃から自分の身体を自分のものとし、自己決定するための教育を受け、生涯にわたって健康でいられるよう国や地域から支援を受けているのです。

 現在、仏は少子化対策の成功モデルにもなっていて、子どもを何人産んでも仕事と両立できる手厚いサポート体制、パートナーも1人で子供の世話ができるようにトレーニングを受けさせるといった、子育て中でも働きやすい環境づくりを職場と国が一緒になって推進し、制度化してきたようです。

 今回、渡仏して感じたのは、同国の女性たちの「発言し続けて引き下がらない強さ」です。この国では常に戦って勝ち取ることが日常的に行われています。そうでなくては、本当に困っている人たちの現状について誰も気が付かないからです。日本の女性は困ったことがあって「こうだったらいいのに」と思っても、「こんなもんだろう」と諦めている人が大多数ではないでしょうか。結局、問題解決が先送りになります。諦めなくていいし、諦めないでほしい。それを伝えるのが今の私の使命だと思っています。

NPO法人女性医療ネットワークによる女性の健康学校「ジョイ・ラボ」

NPO法人女性医療ネットワークによる女性の健康学校「ジョイ・ラボ」

 ◇声を上げムーブメント起こす

 ―この5年間でどのような活動を行ってきたのでしょうか。

 対馬 社会を変えるには世論を動かし、政策や制度を変えることが重要です。政治家や官僚に何度も話をしてきました。今では厚生労働省や経済産業省も聞く耳を持ってくれています。内閣府男女共同参画局も理解を示し、一緒に取り組もうとしてくれています。

 ただ、文部科学省にはまだ旧態依然とした風潮があり、「決まったルールに従ってほしい」と言われます。同省は性教育の普及にもずっと背を向けてきました。日本ではどの業界でも「それは自分が解決することではない」と声を上げない人が多く、むしろ発言しないことが良しとされています。教育は日本の社会を変えていくあらゆる取り組みの根幹を成すものです。いろいろな立場の人たちが自由に発言し、皆がそれに耳を傾け、より多くの声を生かしていく文化をつくっていく必要があるのではないでしょうか。

 ―不正を廃止したことで、女性の医学部入学者数は4割に達しました。このままいくと半数を超えるのも時間の問題だと思われます。今後、医師の働き方は変わっていくのでしょうか。

 対馬 例えば、仏ではいろいろな事情で医師の就業時間を過ぎてしまった場合は、緊急でない限り、その日に予定していた手術を延期することは普通に行われています。患者さんもそのあたりは理解しているようで、医師にはしっかり休養を取ってから手術に臨んでもらった方が安心だと思っているようです。

 女性の数が増えたからといって、組織の意思決定者の女性はなかなか増えていきません。自分に発言力が付いてからとか、立場が偉くなってからというのではなく、まずは現場の人たちがどんどん声を上げてムーブメントを起こしていけばいいと思います。

 女性医師が4割になった、5割になったから終わりではなく、6割、7割になってもいいと思います。そうすると、医療も変わり、医師の働き方も変わります。それに応じて制度や体制、文化も変わるでしょう。男性を隅に追いやるのではなく、男性も働きやすい環境を一緒につくっていけばいいのです。


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