女性医師のキャリア

医学部入学者、女性が4割占める
~求められる「人生を自分で決める力」~ 不正入試から5年

第1回フェムシップドクター養成講座

第1回フェムシップドクター養成講座

 ◇やればできる、諦めない

 ―「女性は当直や救急を避ける」という声もあります。

 対馬 私自身は手術を執刀するとアドレナリンが上がり、達成感がありますので、手術は大好きなのですが、「24時間やれ」とか「休まずにやれ」とは言われたくありません。若い人も仕事を頑張りながら子どもも産んでみたいし、自分のプライベートの時間も充実させたいと思って当然です。女性に限らず男性もそうだと思います。だから、いろいろな人が力を合わせて、オペもやるし、当直もやれるときにはやるみたいなシンプルな勤務体制と評価制度をつくった方がいいですね。

 琉球大学の銘苅桂子(めかるけいこ)医師は、もともと外部の病院で働いていたのですが、より高度な医療を学ぶために「琉球大の産婦人科の医局で働かせてほしい」と申し出たところ、「子どもがいる女性はカウントできない」と一蹴されたそうです。「だったら無給でもいいから働かせてほしい」と粘り、無給で働いていたのです。すると担当教授が変わった途端、「まさに君は働く女性のロールモデルだ」と称賛されることに。3人の子育てをしながら実績を積み、評価され、周産母子センターで同大医学部初の女性教授に就任しました。

 教授となった銘苅医師は次々と内部の改革を進め、女性は育児で仕事を辞めなくていい、男性も育児休暇が取れて子どもの面倒を見られる、子育て中も仕事へのモチベーションが維持できる体制をつくりました。誰でもやればできるのです。しかし、多くの女性は子どもを見てくれる人がいないと諦めてしまいます。今の日本は責任とやりがいがなく、女性が子どもを産んでもつらい、産まずに働いてもつらいみたいな社会が出来上がってしまっているのです。

 ◇女性の底力が社会を変える

 ―女性たちが今できることはありますか。

 対馬 日本で「SDGs」というと「環境」のことばかりに注目が集まっていますが、17のゴールの中で日本が一番遅れているのは「ジェンダー平等」です。日本の女性は声が小さい、層が薄いと言われています。そもそも何もせずに諦めから始まっているので、持てる力をどれだけ発揮できるかというところにはまだチャレンジしていないんですよね。私は日本の女性の底力はきっとすごいに違いないと信じているので、これから皆がチャレンジすればいいと思うのです。

 日本全体がこんなに後退し、勢いを失ってしまっているのは皆が我慢して諦めているからであり、本当にもったいないことです。今後、女性の活躍で期待されるのは「発言力」であり、それは「社会を変えていく力」です。そこにこそ地球の未来があると私は考えます。医療界を変えるとかいうレベルの話ではなく、すべての女性たちが手を取り合い、声を上げて、自らの生き方を決めていく。女性が世界を変えていく時代が来ています。(了)

聞き手・文:稲垣麻里子、企画:河野恵美子(大阪医科薬科大学医師)

対馬ルリ子(つしま・るりこ)
 日本産科婦人科学会専門医。医学博士。専門は周産期学、ウィメンズヘルス。
 1984年弘前大学医学部卒業。東京大学医学部産婦人科学教室入局、都立墨東病院周産期センター産婦人科医長などを経て、2002年にウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック(現女性ライフクリニック銀座)を開院。産婦人科、内科、乳腺外科、心療内科、泌尿器科などで協力して全人的女性医療に取り組む。2003年NPO法人「女性医療ネットワーク」設立。2020年に一般財団法人日本女性財団https://japan-women-foundation.org/を立ち上げ、女性を救済する医師「フェムシップドクター」を養成するなど、企業や団体と連携しながらすべての女性を支援するための活動に注力している。

【注】
*1) 文部科学省資料
 https://www.mext.go.jp/content/20231010-mxt_daigakuc02-100001375_01.pdf

*2) 1994年にカイロで開催された国際人口開発会議において提唱された概念。人間の生殖システム、その機能と(活動)過程のすべての側面で、単に疾病、障害がないというばかりでなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態にあることを指す。

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