治療・予防

災害医療支える移動薬局
~モバイルファーマシー(岐阜薬科大学 林秀樹教授)~

 東日本大震災では、多くの医療施設がダメージを受け機能を失った。施設内外の薬局も同様だ。その経験から生まれたのが、移動薬局車両「モバイルファーマシー」だ。今年1月の能登半島地震を受けてモバイルファーマシーで現地入りした、岐阜薬科大学(岐阜市)地域医療実践薬学研究室の林秀樹教授に聞いた。

岐阜薬科大学が所有するモバイルファーマシー

岐阜薬科大学が所有するモバイルファーマシー

 ◇キャンピングカーなど改良

 車内で処方箋調剤が可能なモバイルファーマシーは、2012年に宮城県薬剤師会の発案により誕生した。現在は、類似機能を持つ移動薬局車両を含め全国で20台ほどが導入済み。地震に限らず、豪雨による水害時や台風による停電時などにも駆け付ける。岐阜薬科大学では17年に導入した。

 「キャンピングカーを改良したモバイルファーマシーはトイレが完備され自家発電も可能で、薬剤師が寝泊まりしながら自立して薬の供給ができます」と林教授。

 災害派遣医療チームなどの医師が出す処方箋を基に、薬剤師が車内で調剤をする。調剤機器を完備しているため、小児や高齢者の粉薬など、体重や年齢に合わせた用量調整が行えるのが最大の特徴だ。

 ◇患者も備えを

 能登半島地震発生後、林教授らは薬剤師3人で1週間ほど現地入りした。避難所となっている学校の保健室で、医師の横に薬剤師1人が付いて処方の提案を行った他、撮影した処方箋データを屋外のモバイルファーマシー車内に送信。データを受けた車内では、2人のうち1人が調剤を、もう1人が調剤のダブルチェックと避難所内の患者に薬を届ける役割を分担した。

 「心臓病や糖尿病などの慢性疾患を持つ高齢者や、避難生活で風邪症状や便秘など体調を崩した小児や高齢の急性疾患患者を中心に、1日当たり40~50人分を調剤しました」

 利用する患者側の備えも重要だという。「災害時はもちろん、外出中の思わぬ事故や発作に備え、お薬手帳を持ち歩いておくとその後の処置や対応に役立ちます」。スマートフォンのお薬手帳アプリを活用したり、お薬手帳が無い人は、薬局でもらう薬の説明書を携帯電話やスマホのカメラで撮影したりしておくとよい。

 一方、モバイルファーマシーがすべての避難所に駆け付けられるとは限らない。「かかりつけの医師や薬剤師と、日ごろから服用している薬の災害時の備えについて相談しておくことも大切です」と林教授はアドバイスしている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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