治療・予防

これでいいのか乳がん検診
~日本の死亡率なぜ下がらない~ 静岡がんセンターの植松孝悦氏に聞く(上)

 マンモグラフィーで見つけにくく

 ―日本人に多い高濃度乳房とはどんな状態ですか。どのくらいの人が該当するのでしょうか。

 「高濃度乳房とは、乳腺が多く、マンモグラフィーで全体が白く映る乳房です。がんも白く映るため、乳腺が多いと、まるで雪原で白ウサギを見つけるかのように難しくなります。

 下の画像を見ると、右の脂肪性乳房ではがんがくっきりと映し出されています。ところが左の高濃度乳房では、乳腺が白く映っていて、がんがあっても見分けがつきにくいことが分かります。

乳がんの見え方の比較。3センチの乳がん(Cancer)は左の画像(高濃度乳房)では全く見えないが、右の画像(非高濃度乳房)だとはっきり見える

乳がんの見え方の比較。3センチの乳がん(Cancer)は左の画像(高濃度乳房)では全く見えないが、右の画像(非高濃度乳房)だとはっきり見える

 ただし、しこりになるタイプの乳がんは見つけにくいものの、石灰化は高濃度乳房だからといって見つけにくくはないので、マンモグラフィーそのものが無駄というわけではありません。多くの日本人女性はマンモグラフィーだけでは不十分だということです」

 ―高濃度乳房の人はどれくらいいますか。

 「私もメンバーの一人である乳がん検診の適切な情報提供に関する研究(厚生労働科学研究費補助金・がん対策推進総合研究事業)の報告書では、40歳以上の受診者2万2493人の集計で、極めて高濃度乳房2%、不均一高濃度乳房35%、乳腺散在乳房58%、脂肪性乳房5%という結果が出ており、前2者が高濃度乳房とされています。現時点では、日本人女性全体について調査したデータはありません。

植松孝悦氏

植松孝悦氏

 そして、視覚的に乳房の性質を判定すると、感覚的なものとなるため客観的かつ普遍的な判定ができないことが分かっています。さらに判定ソフトを使用した研究では、日本人医師が判定する乳房の性質のカテゴリーは、米医師の判定カテゴリーよりもワンランク低い傾向があります。特に、閉経前の40歳代では高濃度乳房の割合が多く、加齢とともに乳腺が減少するため、乳房の構成も変化します。

 ただし、授乳した経験のない人や女性ホルモン補充療法を受けている人は、閉経後も高濃度乳房になりやすい傾向にあります」(*2)

 ―自分の乳房が高濃度かどうかは、どうすれば分かりますか。

 「欧米人に多い、大きくて柔らかい乳房は脂肪性乳房、日本人に多い、小さくて脂肪が少ない硬い乳房は高濃度乳房になる傾向があります。ただし、高濃度乳房か非高濃度乳房かは生まれつきの体質によります。外見から判断することは難しく、実際のところはマンモグラフィーで撮ってみなければ分かりません。

 日本では、高濃度乳房であることを乳がん検診結果表に記入する仕組みにはなっていませんが、自分がどのタイプかを知っておくことは重要だと思います。マンモグラフィー検査を受ける機会があれば教えてくれますので、質問すればよいでしょう。

 米国では2024年9月から、検診を受けた人に高濃度乳房かどうかを通知することが義務となります。通知内容には、高濃度乳房の女性は①乳がんが見つかりにくい②乳がん発症リスクが高い―の二つの説明が含まれます。そして、高濃度乳房の女性はかかりつけ医にさらなる検査が必要かどうかを相談できます」(ジャーナリスト/中山あゆみ)

植松孝悦(うえまつ・たかよし)
 静岡がんセンター乳腺画像診断科兼生理検査科部長。
 1992年新潟大学医学部卒業。2001年同大学博士号取得。92年~2001年まで新潟大学付属病院、新潟県立がんセンターなどで勤務。02年より静岡がんセンター、13年に生理検査部長、17年から乳腺画像診断科部長(兼任)。日本乳癌検診学会理事、日本乳がん検診精度管理中央機構理事など。日本医学放射線学会診断専門医、日本乳癌学会乳腺専門医。

【注】
(*1) Rethinking screening mammography in Japan: next-generation breast cancer screening through breast awareness and supplemental ultrasonography.Uematsu T.Breast Cancer. 2024 Jan;31(1):24-30. doi: 10.1007/s12282-023-01506-w.

(*2) https://brestcs.org/archives/pdf/report.pdf

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