つらい女性の更年期症状
~周囲の理解、ホルモン補充療法~
女性の月経が終わる閉経は平均50歳頃で、その前後5年間は更年期を迎える。更年期の症状は顔がほてったり、めまいがしたり、眠れなかったりしてつらい。生活の質(QOL)を低下させるばかりでなく、男性の理解不足がさらに女性を苦しめる。専門医は周囲の理解を求めるとともに、有効な治療法としてホルモン補充療法(HRT)を勧める。
若槻明彦・愛知医科大学教授
◇下垂体ホルモンが指令
女性の健康は、卵巣で作られるホルモン(エストロゲン)の影響を受ける。このエストロゲンの働きに関係するのが、下垂体ホルモンといわれる黄体化ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の二つのホルモンだ。女性の健康と更年期に詳しい愛知医科大学の若槻明彦教授はこう分かりやすく説明する。
「エストロゲンの分泌量が少なくなると、下垂体は『サボっている』と認識し、『もっと働け』と指令を出す」
このため、生理が止まる閉経の前になると、エストロゲンの分泌が段々少なる一方で、下垂体ホルモンの分泌が多くなる。閉経は1年以上の無月経の状態を指す。専門医はLHとFSHの数値、エストロゲンの数値を検査した上で判断する。エストロゲンの低下と下垂体ホルモンの高進が更年期症状をもたらす。
その症状はさまざまだ。血管運動障害、ほてる、汗をかく、いらいらしやすい、不安に襲われたり、怒りっぽくなったりする。トイレに行くのが近い。尿漏れをしてしまう。
◇「女性の疾患」骨粗しょう症
骨粗しょう症は骨の強度低下により、骨折のリスクが高まる障害だ。男性も女性も40代半ばから骨量は低下し始め、女性の場合は閉経後に急激に下降線を描く。若槻教授は「研究によると、55歳以上は骨粗しょう症の発症リスクは女性の方が圧倒的に高く、『女性の疾患』と言ってもよいだろう」と話す。
日本人の寿命は世界的にもトップクラスだ。「平均寿命は女性が男性より長いが、健康寿命では大きな差はない」
若槻教授は同時に、「悪玉コレステロールが高まる脂質異常、心血管疾患のリスクが高まる」と注意喚起した。
更年期を境にエストロゲンが減っていくことで、女性の体はQOLを低下させるさまざまなリスクに襲われる。では、どうすればよいのだろうか。有効な治療法とされるのが「ホルモン補充療法(HRT)」だという。
「閉経後に何もしないと、骨量は確実に減っていく。HRTにより骨量は増え、骨折リスクは明らかに減る。さらに、脂質を改善する効果もある」
◇黄体化ホルモンも投与
HRTで投与されるのは、エストロゲンと黄体化ホルモン。若槻教授によれば、エストロゲン単独投与は子宮体がんの手術などで子宮を除去した患者が対象となる。子宮を有する女性に対しては、エストロゲンと黄体化ホルモンを周期的か連続的に投与する。エストロゲン単独投与では子宮内膜の形成が過剰になり、がんのリスクが高まるが、黄体ホルモン投与によってそのリスクは低下する。
HRTに伴う大きな副作用はないが、性器から出血したり、乳房がはったりするトラブルはある。さらに、静脈血栓症の増加も報告されているが、若槻教授は「経口エストロゲンは肝臓で吸収されるので静脈血栓症のリスクがある。しかし、エストロゲン投与には添付製剤とジェル製剤がある。この経皮投与では肝臓に吸収されないので、静脈血栓症のリスクは増えない」と言う。
自身の体験などを語る岡崎朋美さん
◇岡崎朋美さんも更年期意識
長野五輪のスピードスケート女子で銅メダルを獲得した岡崎朋美さんが、若槻教授とのトークショーに出演した。
「普段からトレーニングをしているが、一時期体がだるくて顔から汗が噴き出した。もしかして更年期かな、と。運動で改善できると思い、すぐに走り始めた」
「近くにいてくれるトレーナーから、ずっと医学的なアドバイスを受けてきた。その上で汗をすごくかき、体に刺激を与えている」
アスリートの岡崎さんは、体調の変化に敏感だ。しかし、普通の女性にとっては難しいかもしれない。岡崎さんは「汗をかきやすくなったという更年期特有の変化に気づきにくい面があると思う」と言う。
女性の更年期の課題は、なかなか男性に理解されないことだ。例えば、夫から見ると「家事をサボっている」「寝てばかりいる」と感じてしまう。妻は「何度言っても分かってくれない」と不満を募らせ、夫婦げんかにつながることもある。
若槻教授は「外来にパートナーを連れて来て、『この人に説明してください』という女性もいる」とエピソードを紹介した上で、二人で散歩してみたり、ジョギングなどをしたりすることを勧める。岡崎さんは「更年期の症状がつらく、気持ちがもやもやすると良くない方向に行ってしまう。受診し、薬を処方してもらったりするのが良いと思う」と話す。(鈴木豊)
(2024/04/09 05:00)
【関連記事】