現代社会にメス~外科医が識者に問う

「医師の働き方改革」スタート
~医療の質落とさず効率化できるか~ ワーク・ライフバランス 小室淑恵さんに聞く(上)

 2024年4月に医師の働き方改革がスタートし、勤務医の残業時間に上限が設けられた。日本の医療は勤務医の長時間労働によって支えられている側面がある。医師が健康に働き続けられる環境整備は医療の質や安全を担保し、持続可能な医療体制を維持していくために不可欠である一方、医師不足地域では医療体制やサービスの低下を心配する声もある。社会全体で働き方改革を進めることが急務であると訴え続けてきた小室淑恵さん(ワーク・ライフバランス社長)に成功に導くポイントを聞いた。

 ―働き方改革の実現に向けて小室さんが取り組まれてきたことをご紹介いただけますか。

小室淑恵さん

小室淑恵さん

 小室 私は2006年から「働き方改革」という分野で仕事をしており、現在までに約3000社を支援してきました。大きな転換点としては、まさに今年4月から医師にも適用される「働き方改革関連法」です。労働時間の上限規制という70年の労働基準法の歴史上、初めて上限が付いた法改正に深く関わり、これを実現するために水面下で血みどろの戦いをしてきました。

 働き方改革は残業代を減らして利益を出すというものではありません。労働時間の短縮が業績そのものの向上につながります。働き方を変えることで、最も重要な仕事の質が上がり量も増えるのです。企業で成功した実績を持って国に攻め込むということを繰り返し行い、国会では過去に4回ほど答弁させていただきました。

 ◇病院と何度も交渉し足掛かり得る

 ―2018年に医療の働き方改革にも着手されたとのことで、人の命が懸かっている医療の現場で質を下げずに改革を行うというのは、かなりチャレンジングだと思います。この分野に関わるようになった経緯を教えてください。

 小室 業界自体が異常な状態にある病院に対し、何か力になれないかという話は以前から社内でなされていました。病院が持続可能な働き方になっていなければ、結果として国民全員が困るのだから、私たちの会社で出した利益の一部は病院の働き方改革に投資してもよいと合意を取り付けてあったのです。

 私は社会人になってから16年間、ボランティアで学生向けのプレゼンテーション講座を継続していました。そこで指導した学生たちが社会に出た後、組織の長時間労働に飲み込まれて心が壊れたり、業界を去ったりする現状を見てきました。医学生の参加も多く、インターンで病院に入った学生からは「こんな劣悪な環境では医師になっても続けられない」という相談が相次ぎました。

 ある生徒からは「自分の病院の理事に会ってほしい」と懇願され、働き方を変革するお手伝いをしたいと足を運んだところ、全く聞く耳を持ってもらえず、「少しでもお話を聞いてください」と何度も交渉を重ねました。社内からも「病院の働き方改革のためなら無料でもお手伝いしたい」という声が上がり、それぞれが自分の主治医に「働き方改革にトライしてみませんか」とプレゼンを行い、講演の機会をもらいました。そうしているうちに、「無料だったらやってみてもいい」と、ポツリポツリと相談に乗らせていただく機会が増えていったのです。


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