現代社会にメス~外科医が識者に問う

救える命を確実に救うためにー茨城県の挑戦
~救急搬送における「選定療養費」徴収~

 日本全国、どの自治体でも医療の逼迫(ひっぱく)が問題となっている。医師が少ない地域ではなおのこと、医療機関の負担軽減策は“待ったなし”だ。この状況下、茨城県では都道府県単位では全国初となる取り組みを開始した。大病院が重篤な患者を受け入れるという本来の役割を果たし、救急医療体制を維持するため、救急車要請時の緊急性が認められない場合に選定療養費を徴収する制度だ。導入に踏み切った背景やその後の運用状況について、大井川和彦茨城県知事に聞いた。

 ◇増える救急搬送、約半数は軽症患者

  河野 茨城県では2024年12月2日から、22の対象病院に救急搬送された患者のうち、緊急性が認められない場合に「選定療養費」を徴収する制度がスタートしました。選定療養費とは、かかりつけ医の紹介状なしに一般病床数200床以上の病院を受診する際、診療費とは別にかかる費用のことです。新制度の導入に至った背景をお聞かせください。

 大井川 茨城県では救急搬送件数が非常に増えています。23年にはその数が過去最多となる14万件を超え、しかも6割以上が一般病床数200床以上の大きな病院に集中していました。さらに、そのうち約半数は軽症患者でした。

 大きな病院には、重症患者や高度な医療を要する患者を受け入れ、治療に当たるという役割があります。また、24年4月からは医師の働き方改革も始まりました。このまま軽症を含む多くの患者が集中すれば、大病院が本来の機能を十分に果たせなくなってしまう可能性が出てきたのです。

大井川和彦茨城県知事

大井川和彦茨城県知事

 ◇知事が導入を提案

  河野 これは知事の提案だったのですか。

 大井川 検討してはどうかと、最初に提案したのは私です。三重県松阪市で24年6月から、市内3病院で救急搬送における選定療養費の取り組みを開始することが決まっていましたので、その動きも見た上でのことでした。

 茨城県では、人口当たりの医師数が非常に少ないという数字が出ていることもありますが、先ほど申し上げたような懸念がある中で救急搬送の適正化を図るために、茨城県でも救急搬送における選定療養費を導入できるか、導入することに合理性があるのかも含めて検討するよう指示しました。

 ◇多くの関係者から賛同を得る

  河野 昨年4月から県の医師会や対象病院へのヒアリングなど、短期間であらゆる関係者と協議を重ね、10月に県民に周知し、12月から導入に至ったというスピード感に驚きました。関係者はどう受け止めていたのでしょうか。

 大井川 私が県政を執るようになってから、茨城県は常にスピード重視でさまざまな課題に取り組んできました。関係者とどんどん話し合って、前向きに物事を進めています。

 この取り組みがうまくいくのかと心配する方も一部いらっしゃいましたが、大部分は肯定的な受け止めでした。特に医療機関では賛同する声が多く、中には、独自で選定療養費の徴収を始められないか検討していたという病院もありました。

 救急医療体制を取り巻く危機的な状況を何とかしなければならないー。この危機意識を関係者と共有し、多くの賛同を得られたことも、短期間で導入を進められた要因の一つだろうと考えています。


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