現代社会にメス~外科医が識者に問う
救える命を確実に救うためにー茨城県の挑戦
~救急搬送における「選定療養費」徴収~

河野恵美子医師
◇大きな反対の声は聞かれず
河野 県民に対しては、周知から2カ月で制度がスタートしました。皆さんの反応はいかがでしたか。
大井川 県民の方々には、啓発のためのチラシなど、さまざまな手段で集中的に広報を行いましたし、報道でも取り上げられました。県にはこの制度についての問い合わせもありましたが、「選定療養費の徴収って、どういうことなんですか?」といった質問がほとんどで、大きな反対はありませんでした。
時々、「救急車の有料化」であるかのように言う方がいますが、それはまったくの誤解です。搬送先の病院で救急車要請時の緊急性が認められない場合に、あくまで医療費として病院が徴収するというものです。
救急車の要請があれば今後も救急隊は断ることなく必ず搬送する、というのが救急搬送の原則です。今回、私たちはきちんとそのことを明確にして広報しましたので、県民の皆さんにも安心してもらえたのではないでしょうか。
◇軽症の救急搬送が1割近く減少
河野 救急搬送における選定療養費の徴収が始まってから、どのような変化があったのでしょうか。
大井川 昨年末から今年1月にかけてインフルエンザが大流行しました。その中で近隣5県では救急搬送件数が前年同期比で4~9%ほど増加しましたが、茨城県は0.5%減少しました。また、軽症の搬送件数も前年同期比で9.2%減少しました。

近隣5県および茨城県での救急搬送件数の伸び率(2024年12月~25年2月の速報値)=茨城県保健医療部の検証結果報告より

軽症等・中等症以上の救急搬送件数(2024年12月~25年2月の速報値)=茨城県保健医療部の検証結果報告より
◇呼び控えによる重症化事例や大きなトラブルはなし
河野 導入後3カ月で、選定療養費の徴収は何件あったのでしょうか。
大井川 22の対象病院への救急搬送は、3カ月間で約2万2000件ありました。このうち、徴収対象となったのは940件、徴収率は4.2%です。その方々の主な症状は、風邪や腹痛、発熱、打撲、めまい・ふらつきなどでした。
河野 救急車の呼び控えにより重症化した事例や、救急医療現場での大きなトラブルなどはあったのでしょうか。
大井川 これまでのところ、1件も報告されておりません。
◇検証を毎月継続
河野 新しい制度を運用するに当たり、成果や改善点をチェックする体制も欠かせません。どうやって検証しているのですか。
大井川 県の医師会や対象病院の医師、消防本部の救急隊など、関係者による検証を毎月行い、3カ月ごとに実施状況に関する報告書をまとめています。今のところ大きな問題は報告されていませんが、もし何らかの問題が確認されれば、制度の中身も含めてどんどん見直していくつもりです。今後も引き続き毎月の検証を続け、かつ医療機関ともしっかり情報共有しながら、何か問題が起きていないか、もっと工夫する余地があるのではないか、といったことを常に考えていきたいと思っています。
(2025/05/30 05:00)