教えて!けいゆう先生

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過去記事

医師が考える最も確実ながん治療
標準治療を選ぶべき理由

 ◇勝率の一番高い治療法

 誰しも、がんに勝てる一番確率の高い方法を選びたいはずです。タイムマシンでもあれば、一つ一つ試しては過去に戻って、一番効果の高かった未来を選べばよいのですが、そうはいかないわけです。となると、勝負する前に一番勝率の高い方法を知りたい、ということになります。では、やる前から一番勝率が高いと予想できる治療は何なのか?

 答えは標準治療Aです。これは確率論です。誰もが確実に100%勝てる方法はないので、Aを選んで負ける(効き目が乏しい)こともあります。たとえ話に出てきた職場の先輩のお母さんのケースですね。しかし勝率の高さで言えば、上述の例で挙げたB、C、Dという治療、そしてがんを放置すること、のいずれと比較しても標準治療Aは有利です。

 なぜなら、「勝率が一番高い治療」が「標準治療」という言葉の定義だからです。この「勝率」=「がんに勝てる確率」を決める根拠を、われわれ専門家はがん治療における「エビデンスレベル」と呼びます。このエビデンスレベルの考え方は世界中で確立していて、各治療法の効果を証明する根拠を以下のように分けることができます。勝率が高いものから順に並んでいると考えてください(統計学の難しい言葉が並びますが、覚える必要は全くありませんので、サラッと流し読みしてください)。

 1. ランダム化比較試験(のメタアナリシス)
 2. ランダム割付を伴わないコホート研究
 3. ケース・コントロール研究
 4. 対照群を伴わない研究
 5. 症例報告、ケースシリーズ
 6. 専門家個人の意見

 ※分け方はいろいろありますが、比較的分かりやすいこちら(https://www.jsh.or.jp/liver/PDF/evidence_level.pdf)を一部改変しています。

 まず、一番分かりやすいのは最も根拠として弱い「6」に位置する「専門家個人の意見」でしょう。これに相当するのは、上述の例で挙げた、かかりつけのベテランの先生が紹介したDという抗がん剤治療と、一部の専門家が薦める「がん放置療法」です。

 ベテランの先生は「1000人見てきたから間違いない」と言いましたが、何人見ようと個人の意見にすぎないので、その根拠は弱いものです。ちなみに職場の先輩の「Aはやめといた方がいい」という意見は、「専門家ですらない人の個人的な感想」ですので、その根拠の確かさは「6」より下です。

 次に10人や100人といった少人数のモニターを対象にして効果を証明したサプリメントBや免疫治療Cはどうでしょうか。これは、標準的な薬と比較して臨床試験を行ったわけではないので、「4」または「5」に入ります。

 むろん、これらは効き目がない、間違った治療だという意味ではありません。単に、「予想勝率が高い順に並べたら下の方に来るだけ」です。

 では標準治療Aはどうでしょうか。

 このAの効果を証明するために、どれだけ大規模で信頼に足る臨床試験が行われたかによります。大腸がんのように疾患数の多い病気の場合、数え切れないほど多くのランダム化比較試験(最も統計学的に信頼に足る臨床試験)が世界中で行われていますから、その中のよりすぐりであるAは「1」に当てはまります。