教えて!けいゆう先生
あなたの薬、本当に効果ありますか?
治療の効果を示す難しさ
病気に対する治療の効果を証明することは、実は非常に大変です。膨大なお金と時間をかけて、同じ病気の、条件がそろった患者さんたちのデータを集め、大掛かりな研究を行う必要があるからです。
例えば、ある病気に対してAという薬の効果を証明したいとします。患者さんを数百人集め、Aという薬を投与してその効果を調べる臨床試験を行うのですが、この時必ず比較対象として「Aを投与しない患者さん」を同じだけ集める必要があります。「Aを投与しなくても自然に良くなったかもしれない」という可能性を除外するためです。
これは前述した通りですね。ただし、Aを投与しない患者さんに「何も投与しない」というのが間違いとなるケースもあります。例えば自覚症状の改善を見る場合には、「薬が自分に使われている」というだけで、症状が良くなったような気分になる可能性があるからです。
そこでAを投与しない患者さんにも、「プラセボ(偽薬)」、つまり「見た目は薬のようだが効果は全くない偽の薬」を投与し、患者さん本人にはどちらが投与されたか分からないようにする必要があるのです。
一方、試験のタイプによってはプラセボが使えないケースもあります。例えばがんを治療したい患者さんを集める試験では、プラセボだけが投与されるグループをつくることができません。
がんを積極的に治療したいと思っている方は、治療薬が投与されないグループに入るかもしれない試験には参加しません。そこでこういう場合は、従来使用されているBという薬と、新しい薬Aを比較する、という試験を行うことになります。
一つの施設で行うと患者層が偏る可能性があるため、多くの施設から患者さんを集めることもよくあります。さらには、医師にも担当する患者さんがどちらのグループなのかを知らせないようにすることもあります。
「新しい薬の方が効くかもしれない」という先入観が、診察した時の所見を良い解釈に導いてしまう可能性があるからです。患者さんにも医師にもどちらのグループに属するかを知らせない、このような方法を「二重盲検法(にじゅうもうけんほう)」と呼びます。もちろん患者さんは試験期間中、結果に影響を与えるような他の治療は行わないのが条件です。
そして治療の結果、患者さんにどんな変化があり、どんな副作用があるかを細かくデータを取りながらまとめていきます。これらの作業には、膨大な医療者たちの苦労と、膨大なお金が必要です。
こうして行われた臨床試験の結果、薬の効果が示されて初めて、「その病気にAは効果がある」と言えることになります。治療の効果を示す、というのは、このくらい大変なことなのです。
例外的に希少な病気を除き、多くの病気はこのようにして治療の効果が示されてきた歴史があります。これらの数々の研究によって積み重ねられた信頼性の高いデータを、私たちは信用することにしています。
一方、そうではない信頼性の低い情報は、参考程度にすることはあっても、日常診療の意思決定の根拠にすることはありません。「10人の患者さんにAという薬を投与したら、全員病気が良くなったそうです」と言われても、私たち医師の心は動きません。ある治療が病気に対して効果があるかどうかを証明することがいかに大変かを、身を持って知っているからです。
医師は、このような考え方に基づいて日々治療を行っている、ということを分かっていただけると幸いです。
(参考文献)Satomura K, Kitamura T, Kawamura T, et al. Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial. Am J Prev Med 2005; 29: 302-307
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(2018/08/22 10:00)