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「何のため、誰のため」を問い続けて
地域から世界にはばたく―和歌山医大

和歌山県立医大の基礎教育棟

 ◇職業病の克服を目指す

 宮下学長は和歌山県立医科大学を卒業後、同大学教授を経て今年4月に学長に就任した。専門は衛生学。山地が大部分を占める和歌山県は古くから林業が盛んだが、医学部を卒業する頃、チェーンソーで振動障害を起こす労働者が年間2500人に上った。振動によって手足の血管が収縮し、手足がロウソクのろうのように白くなってしまう。

 「生活を確保するための職業が原因で病気になるのは非常に大きな社会的問題だと思いました」

 今でこそ予防医学は注目の医療分野だが、当時は脳や心臓を診る急性期医療が主流。卒業後に予防医学をやりたいというと、周囲から「医者を辞めるのか」と言われたという。毎年冬季の3カ月間は労働現場を巡回健診して地道にデータを集め、診断基準の作成にも尽力してきた。また、文部省の科学研究費助成を受けた研究で、現在も継続中だ。

 ◇誰のために、何のために

 医学部5年生になると学長自ら1回10人ずつランチミーティングを行い、学生たちと直接語り合う時間を設けている。学生たちには、「医療は誰のため、何のためにやるのか」という視点を常に持ち続けるようにと話す。「例えば住民のための検診も、検診率の向上に躍起になって、人々の健康意識を上げることは二の次になりがちです。本当はそれが大事だと思うんです」

和歌山県立医科大学紀三井寺キャンパス正門

 長年、予防医学に携わってきた立場から、「健康は万人にとって公平である」という認識を強く持つ。「WHOの健康の定義にもあるように、貧富や性差など患者さんのバックグラウンドを踏まえながら医療をどう実現していくかが地域医療の原点だと思うんです」

 人口の高齢化、QOLの問題など今後の医療には多くの課題がある。それらに対峙(たいじ)していくためにも、「誰のため、何のための医療か」を常に問い続けることが必要なのだという。「己のスキルを磨いて医療を提供する。キャリア形成も大事だが、自分がやること自体が人々の健康にとってどんな意味があるのかを考えてほしい」

 現在、2021年の薬学部新設にむけた準備で忙しい。医系総合大学として医・薬・看の3学部による合同研究を推進するための共同研究施設も作る予定だ。「3学部コラボレーションして、1+1+1は3ではなく、5になるよう臨床、研究の両面で促進を図りたい」

 華岡青洲を生んだ和歌山から世界へ、新たな知見の発信に向け、着々と準備が進められている。(中山あゆみ)

【用語説明】コホート
共通した因子をもつ観察対象となる集団。例えば、喫煙習慣がある集団とない集団を追跡し、がんにかかる確率を調査する、などの研究をコホート研究という。

【和歌山県立医科大学の沿革】
1945年 和歌山県立医学専門学校設置認可(4年制)
  52年 学制改革による和歌山県立医科大学設置認可
  55年 和歌山県立医科大学開校(新制6年制、40名)
  63年 大学本部及び基礎医学部門移転認可(九番丁)
  95年 看護短期大学部併設(3年制)
  98年 和歌山県立医科大学開講式(紀三井寺) 
  99年 和歌山県立医科大学統合移転完成(紀三井寺)
2003年 国公立大学で初のドクターヘリ導入
  04年 保健看護学部開設
  07年 医学部定員85名届出受理
  08年 医学部定員95名届出受理
  09年 医学部定員100名届出受理
  13年 医学部・大学院医学研究科博士課程履修プログラム開設

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