一流に学ぶ 「美と健康」説くスポーツドクター―中村格子氏

(第3回)
手術に明け暮れ、外来で疲弊
予防の大切さに気付き、「原点」に

 ◇患者の悲しそうな顔に接して

 ある時、転倒して骨折した患者が、救急車で運ばれてきた。中村氏が1カ月前に診察し、転倒予防につえを使うよう指導した高齢の女性だった。「先生ごめんね、転んじゃった」と泣かれ、大腿(だいたい)骨頸部(けいぶ)骨折の手術を行った。女性は家に帰れるように一生懸命にリハビリに励み、やっと車いすに乗れるようになった。

1998年に米サウスカロライナで開かれたスポーツ医学カンファレンスで。左から2人目が中村格子氏。左隣はスポーツ医学の権威、フランク・R・ノイエス博士
 「家族に『もう、そろそろおうちに帰る準備をしてください』と話をすると、まるで中古車を廃車にするような勢いで、『こんな体で家に来られたら困るから、施設を探してください』と頼まれてしまったんです。それを伝えた時のおばあちゃんの悲しそうな顔を見るのが、すごくつらかったです。思い出すと今でも涙が出ます」

 こんなケースは珍しいことではなかった。多くの手術を経験して、手術の腕は上がったが、「患者さんにとって本当のメリットになっているのだろうか」と悩むようになった。それに、手術をすれば病院は収益が上がるが、医療費はかさむ一方だ。

 「これからもっと高齢者が増えていくのに、こんなことを続けていたら、日本経済は破綻する。本来は、転ばないような指導をして、治療よりも予防にお金を使った方がいいのではないか」と考えるようになった。その思いが、のちにメディアを通じて広く一般向けの啓蒙(けいもう)活動を展開する原点となった。(ジャーナリスト・中山あゆみ)

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