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死に場所 第21回

 多死社会だ。

 2020年の死亡者数は156万9050人で過去最多となった。今後、老年人口がピークを迎える2040年ごろまで、死亡数も増え続けるという。多くの人が死ぬ社会、死に場所をどこにするかは避けて通れない問題だ。

その特養の祭壇は、たくさんの生花に囲まれていた

その特養の祭壇は、たくさんの生花に囲まれていた

 ◇どこで死にたいか

 「令和4年度人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」(厚生労働省)にこんな問いがある。

 「あなたが病気で治る見込みがなく、およそ1年以内に徐々にあるいは急に死に至ると考えたとき、最期をどこで迎えたいですか」

 国民の回答は、医療機関41.6%、介護施設10.0%、自宅43.8%だった。ちなみに医師では、医療機関が28.7%と少なくなり、自宅が56.4%と多くなる。介護施設は10.7%だった。

 医療機関で多くの死に接している医師が、自宅での死をより多く望む傾向にあるのはうなずけるが、それにしても、国民も医師も介護施設での死を望む人は少ない。

 ◇「介護施設で死にたくない」

 2021年に日本財団が行った「人生の最期の迎え方に関する全国調査」では、年代別に死に場所の希望を聞いている。

 同調査の「あなたは、死期が迫っているとわかったときに、人生の最期をどこで迎えたいですか」という質問では、「望ましい場所」と合わせて、「絶対に避けたい場所」を尋ねている。

 その中で、77〜81歳が最も避けたい場所は「子の家」の42.4%だったが、「介護施設」も40.4%あることが分かった。ちなみに、医療施設は6.7%と低い。

 それほどまでに、介護施設は死に場所として毛嫌いされる場所なのだろうか。

 ◇介護施設の種類

 一口に介護施設と言ってもさまざまな種類がある。介護保険施設と呼ばれているのは3施設で、生活施設の性格が強い「特養」、在宅復帰の性格が強い「老健」、長期療養施設の性格が強い「介護医療院」だ。これらの施設では、介護サービスを施設内のスタッフで賄うのが特徴だ。

 介護保険施設には分類されていないが、「認知症グループホーム」も、介護サービスをグループホームのスタッフが担う。

 入居者の必要に応じ、介護サービスの多くを外部スタッフに要請する施設としては、低所得者などが行政措置で入居する「養護老人ホーム」、比較的軽度な人が入居する「ケアハウス」、民間企業が運営する「サ高住」(サービス付き高齢者向け住宅)や「有料老人ホーム」がある。ただし、これらの施設の中には、要介護状態になったら退所を求められる所もある。みとりになれば、なおさらだ。

 ◇介護施設でのみとり

 死に場所の話に戻す。

 厚労省は多死社会をにらみ、介護報酬に加算を付けるなどして、介護施設や在宅でのみとりを推進しようとしている。

 ただ、「最期の時が来たら病院へ」という風潮は、やはり根強い。在宅だけではなく、介護施設でも、みとりが行えるスタッフの手薄さや家族の希望などの理由により、亡くなる時は病院へ搬送する所が多いのだ。

 そんな中、みとりだけではなく、希望に応じ、葬儀まで施設で行うケアを開設以来貫いている特養を取材したことがある。

 ◇とある盆地の特養

 九州のとある盆地にその特養はあった。開設は1979年。先代の園長は「今の日本を築いてくれた方々への恩返し」の気持ちを込めて、人生の最終章を迎える高齢者に対し、手厚いケアを続けてきた。

 開設当時、老人ホームには「うば捨て山」的な色合いが根強くあった。老人ホームに送り出す家族は後ろめたさを感じ、高齢者は捨てられた感を抱いて入居する。

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