ダイバーシティ(多様性) 障害を持っても華やかに

聞こえない人が子育てで大変だったこと
~ぜんそくの「ヒューヒュー」や泣き声が…~ (ソニー出身、デフサポ代表取締役 牧野友香子)【第8回】

 私は生まれつき耳が聞こえず、人の声は補聴器を着けてもなかなか聞こえません。そんな私には小学校1年生と年中になる、2人の娘がいます。この子たちが小さい頃、実は聞こえない中で子育てをするのがとっても大変でした。そんな聞こえない人の育児体験をお話しします!

2017年、赤ちゃん時代の次女

 ▼夜中に泣き声が聞こえない!

 まず、赤ちゃんの泣き声が聞こえないので夜に赤ちゃんの横で”寝る”ということがなかなかできませんでした。一応かなり大きな音がしたら分かることもあるので、補聴器を着けたまま寝るようにしていたものの、補聴器を着けても赤ちゃんの泣き声は聞こえないので、当時、激務の夫が仕事に行って、深夜遅くに帰って来るまでは、寝ないでずっと起きていました。夫が帰ってきてから、次のミルクの時間まで寝るというような生活でした。

 ちなみに夜に疲れている中、起きているのがつらかった私は、赤ちゃんが寝ている間に、夜中真っ暗闇の中、プリズンブレイクなどさまざまな海外ドラマを、ここぞとばかりに見てストレス発散をしていました。当時はしんどかったのですが、今思えばとっても貴重な時間だったなあと思います。

 ▼お風呂や料理中も赤ちゃんは、目の届く場所に

 日中も目を離すことができないので、料理中は赤ちゃんを見える範囲に寝かせながら料理をしていました。寝返りを打つ前はまだいいのですが、動き始めてからは大変で!できるだけ手のかからない料理ばかりになっていました。(私1人のときの昼ご飯は、めんどくさいので毎日卵かけか、納豆ご飯でした!)

 また、お風呂に入るときは脱衣場に赤ちゃんを置いてドアを閉め、浴槽のドアを開けっ放しにしたまま、猛スピードで、バババーっと洗って出てくるような感じで、毎日をやり過ごしていました。

 里帰りもしなかったため、今思っても本当に大変な中、頑張った!と思えるくらい大変なのが、この赤ちゃんの時期でした。義母や実母がわが家に来てくれたときは、孫をお願いしてゆっくり湯船に漬かるのが当時の私の楽しみで、この日を指折り数えながら待っていたっけ。今となっては懐かしい思い出です。

 ▼緊急時の子どもの呼び声や、叫び声が聞こえない!

 もう少し大きくなって呼びに来たり、お話ができるようになったりしてきても、また別の大変さがあります。

 例えば、聞こえる皆さんだと、子どもの泣き声を聞いて、その声の種類を判断できると思います。例えば「この泣き声はやばい!なんかあった?!見にいかなきゃ!」と慌てて行ったり、逆に「あ〜ちょっと泣いてるだけか〜料理終わってから行こうかな」というふうに判断できると思います。

 しかし、聞こえない私にはそういう判断ができないので、補聴器でたまに音をキャッチできたりしたときは(「大声かもしれない!叫び声かも!」と思って)料理中でも絶対に手を止めて、とにかく急いで見に行きます。

 そうそう、なんか”ゴン”、というような振動がしたので急いで行ったら、子どもが落ちたんじゃなく、物が落ちただけだった・・・ということも多々ありますし、逆に子どもがベッドから落ちて泣いていても、気付かないで寝たままのこともありました。(小さい時は夫が対応してくれて、大きくなってからは自分で「ママ!」とトントンして教えてくれるようになりました。)

 泣き声や呼び声も基本的に聞こえないので、普段からなるべく子どもが見える位置で家事をしたり、子どもから目を離さないようにしたりする癖が付いています。

2018年4月 好きな公園で撮影(長女3歳 次女1歳)

 ▼子どものぜんそくの音や、たんの絡んでいる音が分からない!

 わが子は、ぜんそくになったことがあるのですが、その時に病院に行くと「どうしてこんなになるまで連れて来なかったの〜!すぐ入院!」とその場で入院させられたんですね。医師に聞くと、ぜんそく特有の呼吸音がしているようなのです。

 次からは「『ヒューヒュー』し始めたら、すぐ連れてきてね」と言われたものの、私にはその「ヒューヒュー」が聞こえません。
なので「『ヒューヒュー』っぽい感じがする!ぜんそくだ!」と思って病院に連れて行ったら「あ〜単純に鼻が詰まってるだけだね!大丈夫!」と言われたこともありました。

 意外と子どもの体調って(自分では言えないので)音で判断していることが多いんですよね。

 夫が「(子どもが)すごく、たんの絡んでいるせきをしているから、ちょっと調子が悪そうだな〜」というのを聞いて「あ!たんが絡んでるって分かるの?”せきの音”って違うんだ!」と初めて知りましたし、夜中にベッドで寝ている最中に「ちょっと吐きそうな感じがする〜ビニール持ってきて!」などと言うのを聞いて、音だけでそんなに判断できるの!?と、一緒に育児をする夫を見ていて、本当に聞こえる人の耳のすごさに驚いています。

 ▼1~2歳の子どもの言うことは分かるの?

 よく受ける質問の一つなのですが、「1~2歳の小さい子どもが言ってることって、聞こえる人でもなかなか分からないんだけど、読唇で言ってることは分かるの?」と聞かれます。

 これは、実際は自分の子の場合は、子どもの知っている語彙(ごい)や言いそうな単語を把握しているため、意外と問題なく分かります!これは聞こえる、聞こえない関係なく「幼児の親あるある」ではないでしょうか?

 ただ、確かに知らない子どもに知らない単語を言われると、ちんぷんかんぷんになることも多々あります。例えば保育園に迎えに行った時に、他の子に「はやぶさとねーこまちがれんけつしてね〜****」と言われ、当時「はやぶさ」も、「こまち」も知らず、「れんけつ」をこんな小さい子が言うと思ってなかったので「!?なんて?!はやぶた?早い豚?」と聞き返しているところに横から先生が「新幹線に『はやぶさ』と『こまち』っていうのがあるんですよ〜それが『連結する』って言うことを…」と補足してくれて初めて「!!!!そうなんだ!」と知りました。(当時、姉妹を育てている私には縁がない言葉でした…)

 今でこそ、子どもの持つ語彙に詳しくなりましたが、当時そういった単語を知らなかったりすると、どうしても主語が無かったり、脈絡のない突然の会話だったりするので、自分の子以外の小さい子からいきなり言われたときは、読唇だけでは、何を言っているのか分からないことはよくあります。

 ▼子どもが後ろでコケていても気付かない

 口を見ないと言っていることが分からないとは言え、日常生活の中で、ずーっと子どもの顔を見続けるのは難しく…。例えば公園なんかで歩いているときに、後ろでコケて大号泣していても気付かずにしばらくスタスタ歩いて「あれ?ついて来ていない?」と後ろを振り向くと、後ろで地面に突っ伏して泣いているのを見つけて、慌てて来た道を戻って「コケたの!?大丈夫??」と駆け寄ることも。

 他にも、自転車に3人で乗っているときに、ハンドル付近と荷台に乗せた子どもたちと会話をするといったことはできません。車の運転中も信号が赤にならないと、子どもと会話ができません。そう言う意味では結構不便なことって多いかもしれません。

2017年3月 好きな公園で家族みんなで撮影(長女2歳 次女0歳)

 ▼聞こえなくても子育てはできるし、楽しい!

 読唇術で会話をしている私の場合、毎日しっかり子どもの顔を見て、お話しができると言うメリットもあると思っています。今では赤ちゃん時代に比べ、子どもたちもある程度成長してきたことで、自分の痛みなども言葉で話せますし、私の聞こえも理解できるようになってきて、困ることが減りました。

 実は、産む前はいろいろと心配していましたし、思い起こせば、確かに大変なことや不便なことはあります。でも、二人を育ててみて「産んでよかったなあ」と思いますし、子育てをしていて(しんどいこともたくさんあるけれど)すごく幸せで、楽しい毎日です。(了)


 ▼牧野友香子(まきのゆかこ)さん略歴

 株式会社デフサポ 代表取締役

 生まれつき重度の聴覚障害があり、読唇術で相手の言うことを理解する。

 幼少期にすごく良いことばの先生に出会えたことでことばを獲得し、幼稚園から中学まで一般校に通い、聴者とともに育つ。

 大阪府立天王寺高等学校から神戸大学に進学し、一般採用でソニー株式会社に入社。

 人事で7年間勤務。主に労務を担当し、並行してダイバーシティの新卒採用にも携わる。

 第1子が50万人に1人の難病かつ障害児だったことをきっかけに、療育や将来の選択肢の少なさを改めて実感し、2017年にデフサポを立ち上げ、2018年3月にソニーを退職し、聴覚障害児の支援に専念。デフサポでは聴覚障害児の親への情報提供、ことばの教育、就労支援を中心に実施。

 2020年より多くの人に難聴に興味を持ってもらいたい!とYouTubeでデフサポちゃんねるをスタートする。

【関連記事】


ダイバーシティ(多様性) 障害を持っても華やかに