顎骨炎(顎骨骨髄炎、顎骨骨膜炎)、顎骨周囲炎(蜂巣炎)〔がくこつえん(がくこつこつずいえん、がくこつこつまくえん)、がくこつしゅういえん(ほうそうえん)〕 家庭の医学

 顎骨炎の多くは、う蝕が進行して歯根の周囲にまで炎症が波及した根尖(こんせん)性歯周炎(歯根膜炎)、歯周病(辺縁性歯周炎)、あるいは智歯(ちし)周囲炎から炎症が顎骨にひろがったもので、う蝕が原因となった感染症(歯性感染症)です。
 そのほかにも、骨折したところから感染したものなど歯以外の原因で起こることもあります。炎症の部位やひろがりかたによって、顎骨骨髄炎、顎骨骨膜炎、蜂巣炎などの病名がつけられます。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の薬やがん治療に用いられる薬と関連する場合もあります(ARONJ・MRONJ)。

[症状]
 あごのまわりが熱をもって赤くはれ、痛みがあります。歯が原因で起こったものでは原因となった歯を中心として、歯が浮いた感じ、かんだときの痛みなどがあります。
 奥歯が原因となって起こった場合には、つばを飲み込むときにのどが痛んだり、口が開きにくくなることがあります。また、あごの下のリンパ節がはれて痛みが出たり、さらに進行すると全身的にだるくなり、熱が出て食欲も落ちて倦怠(けんたい)感が強くなります。
 顎骨の中に炎症の中心がある場合(骨髄炎)には、全身症状や痛みが強く出ます。かんだときの痛みや歯のゆるみ、下くちびるの感覚まひなどの症状もあります。ただし、骨の中に炎症がひろがっているため、外から見てもはれや赤みははっきりしないことがあります。
 上あごでは目や脳のほうに、下あごでは舌の下や扁桃(へんとう)のまわり、くびから前胸部にまで進行することがあります。時には呼吸の障害を起こしたり、全身性の敗血症になり、命にかかわる非常に危険な状態になることもあります。

[治療]
 抗菌薬を使用し、原因菌を攻撃するとともに原因歯の処置をおこないます。うみのたまり(膿瘍〈のうよう〉)がつくられている場合には切開をおこない、積極的にうみを出します。はれのある部分は熱をもっていますが、冷やしすぎはかえって治りをおそくしてしまいます。水をひたしたタオルをあてる程度にとどめて、氷は使用しないほうがよいでしょう。
 一般に原因菌は病原性が比較的弱く、しかも抗菌薬がよく効くものが多いので、からだの抵抗力に異常がなければ、早く適切な処置をおこなえば重症になることはあまりありません。しかし、抗菌薬が発達した現在でも放置しておいたため、重症になる人も少なくありません。

(執筆・監修:東京大学 名誉教授/JR東京総合病院 名誉院長 髙戸 毅)
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