[心臓の構造と血液の循環]

■心臓の構造とはたらき

 心臓はその人のにぎりこぶしほどの大きさの臓器で、4つの部屋から成り立っています。中には壁があって、肺に血液を送る右心(うしん)系と、全身に血液を送り出す左心(さしん)系とに分けられています。各々はさらに全身あるいは肺から流れ込む血液を受け入れる部屋(右心房、左心房)と、血液を送り出す部屋(左心室、右心室)に分かれています。それぞれの心室の入り口と出口には、血液が逆流しないための弁が備わっています。左心室の入り口の弁が僧帽弁(そうぼうべん)、出口の弁が大動脈弁、右心室の入り口の弁が三尖弁(さんせんべん)、出口の弁が肺動脈弁です。

 全身を回った赤黒い静脈血は右心房に集まり、三尖弁を通って右心室に入り、右心室から肺動脈弁を経て肺に送られ、肺胞壁内を流れる間に鮮紅色の動脈血となり、肺静脈から左心房に戻ります。ついで左心房から僧帽弁口を経て左心室に入り、左心室から大動脈弁口を経て、ふたたびび全身に送り出されていきます。
 心臓の大部分は心筋と呼ばれる特殊な筋肉からできています。血液を受け入れる心房の壁は薄く、血液を送り出す心室の壁は厚くて、力強く収縮できるようになっています。右心室よりも全身に血液を送り出す左心室の壁のほうが特に厚くなっており、この強い収縮によって大動脈の血圧は高く保たれます。
 心臓は安静にしているときにはだいたい1分間に60~80回、規則正しく収縮して血液を送り出しています。そのたびに大動脈内の圧力が高まり、その波がさきのほうに伝わっていきます。手くびで触れる脈がこれです。のどぼとけの両側にある頸動脈、両ひじの屈側(折れ曲がるときの内側)にある上腕動脈、足の付け根に触れる大腿動脈などで触れます。脈をみることによって心臓の収縮する回数、収縮が規則正しいか不整かがわかり、また血管のかたさや血流の量なども知ることができるのです。
 からだが活動するときは、活動する組織や細胞にさらに多くの酸素や栄養が必要となるので、いつもより多く血液を供給しなければなりません。このため健康な心臓では、収縮する回数をふやすとともに1回に送り出す血液の量もふやして、ふだんの何倍ものはたらきをします。ところが心臓の病気で収縮する力が落ちてくると、必要なだけの血液を送り出せなくなります。このため心臓は部屋を大きくすることにより、1回に送り出す血液量を保とうとします。病的な心臓では“拡張”することにより、低下した収縮を補ってふつうの力を出しているのです。また血圧の高い人の心臓は、常に強い抵抗に向かって血液を送り出さなくてはなりません。このため長い間には心臓の筋肉の壁が厚くなってきます。これが心臓の“肥大”です。心臓は「肥大」や「拡張」することによって、何年も、ときには何十年も、日常生活に耐える状態を続けることができるのです。
 しかし、この状態にも一定の限度があります。肥大しすぎたり、病状が進んで心臓が耐えられないようなむりが続くと、ついには十分に血液を送り出すことができなくなり、やがては心不全心不全や危険な不整脈で生命にかかわることになってしまいます。心臓突然死

■刺激伝導系
 心臓が一定のリズムで規則正しく収縮し続けるために、心臓には電気の回路に相当する、心筋の興奮(電流)を伝える「刺激伝導系」という組織が備わっています。右心房と上大静脈との境界近くにある洞(どう)結節と呼ばれる司令塔から出された電気の刺激が、まず心房を収縮させ、心室との境界にある房室結節に伝わります。次にすこし遅れてヒス束(そく)を通って左右に分かれ、右心室にいく右脚(うきゃく)と、左心室にいく左脚(さきゃく)にそれぞれ電気刺激が伝わり、左右の心室を同時に尖端のほうから収縮させます。これを1日に約10万回くり返しているのです。司令塔である洞結節は、外部からの刺激を受けなくても自動的に固有のペースで電気的刺激を出しています。この洞結節をはじめ刺激伝導系のどこかに障害が起こったとき、あるいは刺激伝導系以外のところから余分な電気刺激が出されたときに、いろいろなタイプの不整脈不整脈が発生します。


■冠動脈(冠状動脈)
 心臓は常に収縮して血液を送り出し、全身に酸素と栄養分を供給する重要な臓器です。24時間休むことなく収縮するためには、心筋そのものにも多くの酸素と栄養分が必要となります。そのため心臓から出た大動脈は、最初に心臓自身に血液を送るための血管の枝を出しています。これが冠動脈(冠状動脈)です。冠状動脈は左右2本あり、それぞれがさらに枝分かれしながら心臓全体をおおって心筋などの組織に血液を供給しているのです。冠状動脈だけを取り出してみると、王様の冠(かんむり)に似ています。

 左冠状動脈はすぐ2本に分かれ、1本は心臓の前面を下りおもに左心室の前面(前壁)と側面(側壁)および心室中隔(左右の心室の間にある壁)に、もう1本は左から心房と心室の間を通って心臓の後面に向かい、おもに左心室の側壁と後壁に血液を送っています。左冠状動脈は左心室へいく血流の約3分の2を占める重要な血管です。特に2本に分かれる前の部分は“左主幹部”といわれ、もしここがつまると致命的になる可能性が高いことが知られています。
 右冠動脈は右から心臓の後面に向かっていますが、おもに右心室全体と左心室の後壁に血液を供給しています。ふつうはこれらの枝どうしはつながっていませんが、どこかの枝がつまりかけて流れがわるくなった場合、ほかの枝から自然のバイパスができ血流を補うしくみもあります。
 心筋全体を養った血液は静脈血として大部分が冠状静脈に集まり、右心房に戻ります。

■血液循環のしくみ
 心臓から全身の組織のすみずみまで血液を送り込み、同時に全身から血液を集めて心臓まで戻す(循環させる)装置が“循環器”で、その源に心臓があります。
 組織が生きていくためには、肺から吸収した酸素と、消化器から吸収した栄養素、内分泌腺から出るホルモンなどが必要であり、また組織の中に生じた炭酸ガスと老廃物(不要になったもの)を体外に排出する必要があります。これらの物質を溶かして運ぶのが血液で、その血液を動かすのが“循環器”です。
 心臓はおもにポンプのはたらきをして、血液を動脈に押し出し循環させます。この動脈血の一部は、消化器の壁を通り栄養分を吸収します。あるいは腎臓を通って老廃物を尿として捨て、また肝臓を通って有毒物を中和したり、肝臓でつくられたたんぱく質などを受け取ります。動脈血のほとんどは細動脈、毛細血管を通して全身の組織・細胞に分布したあと、酸素や栄養分を失い、炭酸ガスや老廃物を取り込んだ赤黒い静脈血となり、毛細血管、細静脈を通して静脈に集まり、ふたたび心臓に戻ります。これが“血管系”です。血液はこの心臓血管系の中を循環します。

 血液循環はこのように心臓を中心とした精巧なしくみによって、生命を維持するための重要な役割を果たしているのです。