弁膜症の外科的治療
外科的治療法は、僧帽弁、大動脈弁ともに機械弁や生体弁を用いた置換術や、形成術などがあります。
機械弁は、パロライトカーボンというものやチタンなどの金属を素材にしており、ほぼ半永久的に効果が期待できますが、金属が血液と直接触れて血栓をつくることがあり、血栓予防のための抗凝固療法(ワルファリンカリウムの服用)が一生涯必要となります。ワルファリンカリウムの効果には個人差があり、また、同じ個人でも食事や併用薬剤などの種類に影響を受けることがあります。このため通常、定期的にワルファリンカリウムの効き具合を採血によりチェックします。
いっぽう、生体弁はウシの心膜などを利用してつくられたものですが、この場合、手術直後を除き、ワルファリンカリウムは必要なくなります。このため、高齢者や妊娠を希望する女性など、ワルファリンカリウムをのむことがむずかしい場合に用いられます。しかし、年月とともに劣化してしまうため、将来的には再手術が必要になります。
大動脈弁や僧帽弁の閉鎖不全症の場合、形成術がおこなわれることがあります。形成術とは弁そのものを取り換えるのではなく、自分の組織などを利用して手を加え、文字通りつくり直す手術です。高度の技術を要し、弁の異常が高度の場合には形成術が不可能になることもありますが、近年多くの施設で実施されるようになってきました。手術後は、心房細動などの合併症がなければ、ワルファリンカリウムの必要性もなくなります。
弁膜症の手術は、基本的には弁を取り換えたり形成したりする手術になりますが、大動脈の弁膜症では大動脈の拡張が同時にみられることがあり、将来破裂する危険がある場合には、大動脈を人工血管に取り換える手術もいっしょにおこなわれることがあります。
■経皮的大動脈弁置換術(TAVI / TAVR)
弁膜症の手術は、心臓外科医による開胸手術が必要となります。これは、実際に胸を切り開き、心臓をとめて人工心肺という大きな機械に心臓と肺の肩代わりをさせながら心臓を切って弁の手術をする方法です。しかし近年、カテーテル(細い管)による手術がおこなわれるようになってきました。いまは大動脈弁狭窄症に対する治療としておこなわれており、経皮的大動脈弁置換術(TAVI / TAVR)といわれています。
具体的には、足の付け根などからカテーテルを入れて、新しい生体弁を乗せたバルーン(風船)をふくらませながら植え込んでしまうという治療法です。使用している生体弁やバルーンなどの進歩により急速に普及してきていますが、いまのところ高齢者やほかの病気などにより開胸手術がむずかしいと考えられている患者さんが対象となっています。

■僧帽弁のカテーテル治療(Mitra-clip)
最近は、僧帽弁閉鎖不全症に対してもカテーテル治療がおこなわれるようになってきています。心臓の機能が低下して心臓が大きくなり、僧帽弁の根元が拡大してしまい、難治性の心不全をくり返している人を対象としたものです。
これらの人では、僧帽弁の部分が拡大したために2枚の扉がうまく閉じなくなっています。この閉じなくなった2枚の扉をクリップで中央からひっかけて近づけ、血液の逆流を少なくするという治療法です。
また欧米では、大動脈弁と同じようにカテーテルで人工弁に交換する治療が始まっており、今後治療の選択肢がひろがることが期待されています。
■低侵襲心臓手術(MICS)
心臓手術は、胸の真ん中(胸骨部分)に約20cmほどの切開を入れて開く方法が一般的ですが、肋骨と肋骨の間に3cmほどの切開を入れて内視鏡下でおこなう低侵襲手術が積極的におこなわれるようになってきました。可能な病気は限られますが、これにより傷も小さく術後の回復も早くなることがメリットです。

(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 副院長/循環器内科 主任部長 井口 信雄)
機械弁は、パロライトカーボンというものやチタンなどの金属を素材にしており、ほぼ半永久的に効果が期待できますが、金属が血液と直接触れて血栓をつくることがあり、血栓予防のための抗凝固療法(ワルファリンカリウムの服用)が一生涯必要となります。ワルファリンカリウムの効果には個人差があり、また、同じ個人でも食事や併用薬剤などの種類に影響を受けることがあります。このため通常、定期的にワルファリンカリウムの効き具合を採血によりチェックします。
いっぽう、生体弁はウシの心膜などを利用してつくられたものですが、この場合、手術直後を除き、ワルファリンカリウムは必要なくなります。このため、高齢者や妊娠を希望する女性など、ワルファリンカリウムをのむことがむずかしい場合に用いられます。しかし、年月とともに劣化してしまうため、将来的には再手術が必要になります。
大動脈弁や僧帽弁の閉鎖不全症の場合、形成術がおこなわれることがあります。形成術とは弁そのものを取り換えるのではなく、自分の組織などを利用して手を加え、文字通りつくり直す手術です。高度の技術を要し、弁の異常が高度の場合には形成術が不可能になることもありますが、近年多くの施設で実施されるようになってきました。手術後は、心房細動などの合併症がなければ、ワルファリンカリウムの必要性もなくなります。
弁膜症の手術は、基本的には弁を取り換えたり形成したりする手術になりますが、大動脈の弁膜症では大動脈の拡張が同時にみられることがあり、将来破裂する危険がある場合には、大動脈を人工血管に取り換える手術もいっしょにおこなわれることがあります。
■経皮的大動脈弁置換術(TAVI / TAVR)
弁膜症の手術は、心臓外科医による開胸手術が必要となります。これは、実際に胸を切り開き、心臓をとめて人工心肺という大きな機械に心臓と肺の肩代わりをさせながら心臓を切って弁の手術をする方法です。しかし近年、カテーテル(細い管)による手術がおこなわれるようになってきました。いまは大動脈弁狭窄症に対する治療としておこなわれており、経皮的大動脈弁置換術(TAVI / TAVR)といわれています。
具体的には、足の付け根などからカテーテルを入れて、新しい生体弁を乗せたバルーン(風船)をふくらませながら植え込んでしまうという治療法です。使用している生体弁やバルーンなどの進歩により急速に普及してきていますが、いまのところ高齢者やほかの病気などにより開胸手術がむずかしいと考えられている患者さんが対象となっています。

■僧帽弁のカテーテル治療(Mitra-clip)
最近は、僧帽弁閉鎖不全症に対してもカテーテル治療がおこなわれるようになってきています。心臓の機能が低下して心臓が大きくなり、僧帽弁の根元が拡大してしまい、難治性の心不全をくり返している人を対象としたものです。
これらの人では、僧帽弁の部分が拡大したために2枚の扉がうまく閉じなくなっています。この閉じなくなった2枚の扉をクリップで中央からひっかけて近づけ、血液の逆流を少なくするという治療法です。
また欧米では、大動脈弁と同じようにカテーテルで人工弁に交換する治療が始まっており、今後治療の選択肢がひろがることが期待されています。
■低侵襲心臓手術(MICS)
心臓手術は、胸の真ん中(胸骨部分)に約20cmほどの切開を入れて開く方法が一般的ですが、肋骨と肋骨の間に3cmほどの切開を入れて内視鏡下でおこなう低侵襲手術が積極的におこなわれるようになってきました。可能な病気は限られますが、これにより傷も小さく術後の回復も早くなることがメリットです。

(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 副院長/循環器内科 主任部長 井口 信雄)