大腿骨頭壊死〔だいたいこつとうえし〕 家庭の医学

 大腿骨頭は大腿骨のいちばん上の球状の部分をいいます。骨頭の球状の部分は、ほとんどが軟骨でおおわれているため血管がなく、血液の循環は骨頭の付け根の狭い部分を通してのみおこなわれています。もともと血液の循環が制限されているため、なにかをきっかけに骨頭への血液の供給が低下しやすく、そうなると骨頭をつくっている骨の中の細胞が死んで壊死(えし)と呼ばれる状態になります。
 骨はかたい組織ですので、壊死が生じても直後には目立った変化があらわれませんが、時間がたつにつれ、壊死が生じた部位の骨が弱くなって骨頭の一部が陥没し、股関節に痛みが生じるようになります。この時期になると、X線検査でも骨頭のかたちがはっきり変わって見えるので診断は容易になりますが、病気の起こり始めで陥没が生じる前の状態ではX線検査だけでは診断がむずかしいこともあり、この場合にはMRI(磁気共鳴画像法)や骨シンチグラフィなどの検査が必要になります。
 大腿骨頭壊死は原因がはっきりしないこともありますが(特発性大腿骨頭壊死)、長期にわたる過度の飲酒が壊死をひき起こすことが知られています。そのほかに、大腿骨頸部の骨折で骨折部を固定したあとに骨頭の壊死が生じることがあり、また、ほかの病気の治療のため投与された副腎皮質ステロイドが骨頭壊死をひき起こすこともあります。

[治療]
 痛みがそれほどひどくなければ、壊死が生じた股関節になるべく負担をかけないようにし、痛みどめの薬で症状をやわらげる治療がおこなわれます。痛みが強くて日常生活に不自由するようであれば人工股関節置換術がおこなわれますが、若年者では人工関節の耐久性の問題を考えて、関節固定術や骨切り術がおこなわれることもあります。

(執筆・監修:東京大学大学院総合文化研究科 教授〔広域科学専攻生命環境科学系〕 福井 尚志)
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