がんはどのようにひろがってゆくか(浸潤、転移など) 家庭の医学

■局所で増殖するがん:圧迫・浸潤
 がんができても、急に大きくならず同じ場所にとどまっていれば、重大な健康被害は起きません。しかし、がんが徐々に大きくなりその周囲にある組織を圧迫したり、がん細胞がしみ込むようにひろがり始めると、重大な健康被害が発生し、やがては死をもたらすこともあります。たとえば、大腸にがんができたとしても、小さいうちは邪魔になりませんが、大きくなると大腸が狭くなり、便など腸の内容が通過しにくくなります。ガスや便がたまり、おなかがはってきて、腹痛や嘔吐(おうと)など腸閉塞の症状が出てきます。当然食事ができなくなり、そのままでは生きてゆくことができません。

■移動(転移)するがん:転移の3つの経路
 がんが発生した場所にとどまっていれば、それを手術で取り除くなどすれば、容易に治すことができます。しかし、離れた臓器にがんがひろがってしまうと、手術で取り除くことはむずかしくなります。このようにがん細胞が離れた場所へ移動して、そこで増殖することを転移といいます。転移にはがん細胞が血管の中に入り込み血液の流れに沿って移動する「血行性転移」、リンパ管の中に入り込み離れたリンパ節に移動する「リンパ行性転移」、おなかや胸の中に種がまかれるようにひろがる「播種(はしゅ)性転移」など3つの経路があります。これらの経路を通って離れた臓器に到達したがん細胞がそこで増殖し、その臓器にさまざまな障害を引き起こすようになります。

□血行性転移
 血管に入り込めば、がん細胞は血液に乗って全身の臓器にひろがってもよさそうですが、血液中に入り込んだがんの多くはそこで増殖できず、死んでしまうと考えられています。また、どこかの臓器に流れ着いても、そこががん細胞の増殖に適しているとは限りません。胃がんを例にとってみると、胃がんでは血行性に肝臓に転移することが多く、肺や脳に血行性転移するのは肝臓ほど多くありません。皮膚や骨髄にも転移することがありますが、その頻度は肝臓に比較するときわめて低いのです。胃の血液はすぐに全身にひろがるのではなく、いったん肝臓を経由するので、がん細胞が肝臓に引っかかることが多いと考えられています。同様に膵(すい)臓や大腸の血液も、いったん肝臓を経由して全身にひろがるので、肝臓への転移の頻度が高いことが知られています。いっぽうで、腎臓の血液は肝臓を通らずに、直接心臓に戻り、肺を通って全身にひろがるため、肺に引っかかる可能性が高く、肺転移を起こす頻度が高くなります。

□リンパ行性転移
 臓器には豊富なリンパ管のネットワークがあるため、がんがリンパ管の中に入り込むことがあります。最初は発生した部位のすぐ近くのリンパ節に流れ着き、そこで増殖してリンパ節転移を形成します。また、時間とともにそこからさらに遠くのリンパ節にも流れてゆき、そこで増殖します。近いリンパ節から、時間とともに遠いところのリンパ節へと進展するので、近いリンパ節にしか転移のない比較的早期のがんでは、リンパ節を一緒に切除することでがんを完全に取り除くことが可能です。したがって、がんの手術ではもともと発生したがんとともに、近くのリンパ節をあわせて切除するのが一般的です。しかし、かなり離れた部位のリンパ節に転移しているときには、さらに広く遠くにがん細胞が散らばっているため、無理をして広くリンパ節を取り除いても、完全に治すことはできません。

□播種性転移
 植物の種をまくようにがんがひろがることから、播種性転移といわれます。たとえば、胃の内腔に発生した胃がんは増殖して胃の表面に達すると、そこからがん細胞がおなかの中(腹腔)にこぼれ落ちて、腹膜に転移(腹膜播種)が形成されます。播種性転移は胃がんだけでなく、膵臓がんや大腸がんでもよくみられる転移形式です。こぼれ落ちたがん細胞は、腹膜全体に多数の転移を形成するため、これをすべて外科的に除去することは困難で、一般的には抗がん薬治療がおこなわれますが、根治させることのむずかしい転移です。

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